19話

愛らしい姿形?

心奪われていた?

聞き間違いだろうか。

それとも嘘?

でもここで嘘なんて吐いて楽しいか杖化け物。

おおそうだとも、眼前立ちはだかるは杖化け物。

どうせ翔颯の事なんて路傍の石とも思ってないのさ。


素敵な言葉なのに素直に受け止める事出来ず疑惑に汚染された翔颯かけはやてへ、注がれるは熱の籠った眼差しだった。

きらきら輝く黄金に疑惑が浄化され、途端に翔颯かけはやての素直さが目を覚ます。

そしたら一気に全身が熱くなった。

だってそんなそれって。


それって好きって、事?

杖化け物が、自分を?

好き?


「にーさん、は、俺が、好き…?」


疑問を素直に口にした翔颯へ、杖化け物が「ああ…」苦し気に頷いた。

ゆっくり瞬いた瞼開いた金の双眸、優しい熱い。


翔颯の胸が高鳴った。

すごく、どきどきが、すごい。

首筋から背中とお腹がすごく熱い。

翔颯は何か、何か応えないと応えたいと言葉を探した。


「だが其の心は」


けどそんな言葉を押し留めるかのように、杖化け物が翔颯の心臓を指差した。

其とか、小僧とか、人間とか、じゃなくて名前で呼んで欲しい。

それから、それから、それから。

このひとなら、このひととなら、このひとと。

言いたい事一杯なのに、杖化け物がつらつら一方的に告げてくる。


「其の、心は何処にある。此方の手の内には無く、其の心はそこに有る。此方は永く在る。それ故奪えぬ物など何も無いと奢っておった…そしてそれこそ、力でねじ伏せて奪っても詮無き事。故に言え。同意すると…早う」


杖化け物が切なそうな表情を惜しげもなく浮かべ、言い切ってしまった。

彼の中ではもう、何もかもが決まってしまっているのだ。

諦める事が苦痛だっていう、その様子さえ美しい嗚呼杖化け物。

茶色の髪の輝き艶めきキューティクルでさえ辛そうで。

そんな杖化け物を翔颯は見つめる事しか出来なかった。

だって体温が上昇し続けてるから。

胸のどきどきが一向に収まらず五月蠅い。

すごく、顔が熱い。

頭に血が昇ってくる。

口の中が渇く。

水ならあるけど今は良い。

だってこのひとから眼を逸らしたくない。


翔颯は握り固めた両拳を広げ、杖化け物のスーツの裾を握り締めた。

そうしないと昨夜みたいに無音で消えてしまいそだったから。


「や、だ」


一先ずの拒否口に出来た自分偉いと自画自賛。

不躾な手は払いのけられなかったから、調子にのって身を乗り出す。

良い匂いがした。

たぶん杖化け物の匂いだ。

大人の、男の、素敵で魅力的な香り。

餓鬼臭い自分なんて相応しくないけど、心を奪っているからきっと平気だ大丈夫。


「…何を」


戸惑いの声に対して翔颯は、上等な上着がシワになるとか考えず、ぎゅうっと握り締めた。


「やだ、同意しない、したくない」


その想いを手放したく無いと思った。

急にぶつけられた想いだけど、欲しいと思った。

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