第24話 ピンチからの終了

【幻夢】


【忍術IV】になると取得できるスキル。1日に1度だけ攻撃を受けた瞬間に20m離れたところに転移する。このスキルが発動した場合、攻撃を受けてもダメージは入らない。




「【幻夢】あって良かった~。幻夢で転移したら20m離れるからその間に硬直も解けるし、【忍術】が無かったら私は何回死んでるんだろう。」




アヤネが転移したことに気づいた精霊たちは素早い動きでアヤネに迫る。が、アヤネの言った通り、20mは大きかった。精霊たちがアヤネの元へ着く前にアヤネの硬直が解け、アヤネは逃走を再開する。




「やっぱり、3秒は大きいよね。20mも大きいと思ったけど。ま、文句は言えないんだけどね。実際、何回か助けられてるし。」




アヤネが逃げを再開した時の精霊たちとの距離は僅か5m。このままだとすぐに攻撃を受けてしまう。そこでアヤネは超スピードで振りきることにした。




「【神速】」




アヤネの速度が3倍になる。


これでかなりの距離を離せるはず、という考えは甘かった。戦いが始まってからまだ2体の精霊を見ていない。そして、【神速】が終わり、通常の速度に戻る。そこに、精霊2体がアヤネの後ろ、10mほどに来ていた。精霊2体が来ていることを【気配感知】で確認したアヤネは驚き、振り返ると、カンガルーとカンガルーのお腹のポケットから顔を出した小さめのペンギンがいた。それを見た瞬間、アヤネは盛大に思った。


(えっ、そこって赤ちゃんが入るんじゃないの?)と。




だが、カンガルー型精霊のスピードがどんどん落ちていく。すると、カンガルー型精霊はポケットのペンギン型精霊を出し、そのペンギン型精霊をアヤネに向かって滑らすように思いっきり投げた。




「!!」




カンガルー型精霊の手から飛ばされるように滑らされたペンギンはアヤネに一直線に向かっていくが、アヤネは持ち前の条件反射でジャンプしてペンギンを回避した。のだが、いつの間にかアヤネの足に糸みたいな物が付いていることに気付き、よく見ていると、そこにペンギンの方からすごい勢いで糸を伝ってきた蜘蛛型精霊がアヤネの足に着地した。




「っ!」




アヤネは片方の忍刀の柄で蜘蛛型精霊を飛ばして、もう片方の忍刀の刃で糸を斬った。




「あの蜘蛛、他の精霊から私に移動してたのか。いや、それよりもカンガルーはどうやってあんなに速く来たのさ。」




今、半径20m以内には精霊はいない。




「さて、と。どうするかな。とりあえず【土人形】。行ってらっしゃい。」




アヤネの複製がカンガルー型精霊のところに行く。




「あれは私の能力をある程度トレースしてるから多少は太刀打ち出来るかな?」




アヤネはカンガルー型精霊も、ペンギン型精霊もいない方向に走る。




「これでちょっとは時間稼ぎ出来てるからあとは耐えるだけだし、勝ちが見えてきたかも。」




実際、すでに開始から10分が経とうとしている。だが、精霊が簡単に勝たせてくれるわけもない。その証拠に鷹型精霊が背中に兎型精霊を乗せて飛んできた。




「あちゃー、一気に2体も来るとは思ってなかったよ。鷹は来ると思ってたけど。普通は単体でしょーに。」




「すまんが、普通じゃないのでな。」




「わしも普通じゃないぞい。」




(え、兎ってそんなにおじいちゃんみたいな声をしてるの?なんか、勝手に可愛らしい声を想像してた。ごめんなさい。)




アヤネは兎型精霊に心の中で謝り、その2体に集中した。




すると、鷹型精霊は口に、兎型精霊は耳と耳の間に魔力を集め、黒色の球体を作る。そして、アヤネに向けて放つ。




(これは!!【ダークボール】的な魔法!?)




名付けるならばそう名付けるのが正しいだろう。アヤネはその闇の球を難なく躱すと敢えて、鷹型と兎型精霊が来た方向に走り出す。なぜなら、その2体が来た方向はアヤネの正面でカンガルー型精霊が来た方向ではなかったから。この先には他の精霊はいないと考えたのだ。その考えを確信させるように鷹型精霊と兎型精霊が舌打ちをする。その2体もアヤネと同じ方向に向き、飛ぶ。そして、最初に出した【ダークカッター(仮)】を何度もアヤネに放つが、アヤネは全て躱す。しかし、精霊も負けてはおらず、兎型精霊が耳から超スピードで【ダークボール(仮)】を連続放出する。アヤネはそれには堪らず、右に曲がる。




(くっそ~、方向転換させられた。しかも、何?あの兎。めちゃんこ魔法撃つじゃん。魔力量、どうなってんの?)




アヤネにとってさらに驚くことが起きた。鷹型精霊の影からカメレオン型精霊が現れたのだ。




「!!」




(なに、あいつ。影から出てきたよね?ていうかあいつ、動いてないのに鷹の影と一緒に移動してるし。てことはカメレオンは鷹の影からは出られないってこと?なら、あいつにはもう気を逸らされずに済むかも。実際、初撃さえ躱せばなんとかなったし。終了までこのままずっと続けば良いのに。)




アヤネの願い通り、その3体との追いかけっこは長く続き、残り時間は5分になっていた。そして、アヤネにとっては楽だった時間は終わりを告げる。




ヒョウ型精霊の胴体にヘビ型精霊が巻き付いて、ワニ型精霊の上に猿型精霊が乗り、その後ろからカンガルー型精霊がポケットにペンギン型精霊を入れてやって来た。




「うわあ、また揃っちゃうんだ。地獄の始まりだね。」




「軽い口を叩けるのもここまでですわ。」




(ヘビはお嬢様口調なの!?)




「お主の言う通り、地獄を始めようかの。」




(ヒョウは長老的しゃべり方!)




ヒョウ型精霊がそう言うと一旦、止まっていた精霊たちの一斉攻撃が始まった。カンガルー型精霊のポケットから出てきたペンギン型精霊をカンガルー型精霊がまっすぐ蹴り、2度目のペンギン砲弾が完成した。ペンギン型精霊はアヤネにまっすぐ滑ってくるがさっきと同じようにジャンプする。今度は蜘蛛に気をつけて。蜘蛛がいないことを確認するとアヤネは鷹型精霊と兎型精霊の魔法とヒョウ型・ワニ型精霊の接近を躱すためにスキルを発動させる。




「【リターンポジション】【水遁】」




アヤネは精霊の包囲網を抜け、どんどん離れる。そこに猿型精霊がヘビ型精霊を投げてくる。アヤネはヘビ型精霊の尻尾を掴むと魔法を撃とうとしている兎型精霊に投げつけた。




「「ふぎゃっ」」




アヤネ、満面の笑み。他の精霊たちは顔をひきつらせてはいるが攻撃の手が緩まることはない。アヤネは5秒間、攻撃を躱すことだけに集中して走った。そして、5秒経ち、さっきの場所に戻るとヘビ型精霊と猿型精霊と兎型精霊がいた。




「え、」




「「「え?」」」




アヤネを見て驚いた表情を見せるがすぐにヘビ型精霊が猿型精霊の腕に巻き付き、兎型精霊が魔法を撃ち、猿型精霊が飛びかかって来た。それに対してアヤネは反射的に【火遁】を使ってその場を離脱するとまた走る。


それにいち早く対応したのが鷹型精霊であとを追ってくる。さらに鷹型精霊の影からカメレオン型精霊がペンギン型精霊を抱えて出てくる。


さっきのペンギン砲弾をカメレオン型精霊がキャッチして影に入ったのだ。そして、ペンギン型精霊をカメレオン型精霊は長い舌で押しながら進む。ある程度の速度が出最後の一押しをするとカメレオン型精霊はペンギン型精霊の影に舌を伸ばし、そのままペンギン型精霊の影に入った。そして、影の中からペンギンを舌で押して高くしてアヤネに攻撃を仕掛ける。


それに気付いたアヤネは後ろを振り向くと慌てて上体を反らすが、そこでカメレオン型精霊の舌が伸びていることに気づいた。そして、カメレオン型精霊の舌がアヤネに当たった。その瞬間にアヤネが【変わり身】を発動して窮地を脱する。




(あっぶなかった~。なに?あのカメレオン。鷹の影から出られないんじゃなかったの?てか、ペンギンはどこから来たのよ。砲弾になってたでしょ。)




疑問が山のように出てくるこの戦いを振り替える暇は【思考超加速】を使っていても無いらしい。【変わり身】を使ったときに驚きすぎてちょっと固まってしまっていたのだ。


そこにペンギン型・カメレオン型精霊の後ろを付いてきていたカンガルー型精霊がアヤネに追い付く。そして、アヤネとカンガルー型精霊の近接戦が始まった。と言ってもアヤネがパンチや蹴りを躱すだけなのだが。それにしても「近くからの攻撃を躱すのは無理」と言っていたのにも関わらず、ここまでキレイに躱しているのを誰かが見ていたとしたらアヤネも反射神経が化け物だと思ってしまうだろう。




カンガルー型精霊に足止めを喰らったアヤネの元に他の精霊が次々と追い付いてくる。


鷹型精霊はアヤネにデバフをかける魔法で、兎型精霊は普通に攻撃する魔法で、ワニ型・ヒョウ型精霊は共に近接戦に参加して、猿型精霊は近接戦も魔法も使ってチマチマと、ヘビ型精霊はカンガルー型精霊の腕に巻き付いてバフをかけて、それぞれがサポートをしていく。


そして、鷹型精霊のデバフによってアヤネの動きが鈍くなり、ヘビ型精霊にバフを受けているカンガルー型精霊の動きが早くなる。それでも、10秒ほどは魔法も拳も全て躱していた。しかし、遂にアヤネにカンガルー型精霊の拳が入るかと思われたその瞬間、全ての精霊が止まった。




「へ?」




いきなりのことすぎて理解できず、アヤネも一緒に止まる。そこに、拍手と共にこのエリアの主である闇の妖精が現れる。




「おめでと~う。それから、お疲れ様~。スゴいね、アヤネ。精霊10体を相手にノーダメージなんて。」




「はあ......ん?おめでとう?お疲れ様?てことはクリア?」




アヤネは闇の妖精に問いかけると答えは違う方向から飛んできた。




「そうだよ!!さっき、妖精様がおっしゃっただろうが!!」




「.........やったあぁぁぁ!!」




アヤネは喜びを声に出すと力が抜けたかのように女の子座りになった。








◇◇◇


アヤネがズル(?)をして2つ目の試練をクリアした頃、ユアは闇エリアの前にいた。




「アヤネが行きたそうな場所だよね。でも結局は入るのを最後にしてそう。覗くだけなので初見殺しはやめてくださいね~。」




ユアは誰に向けてかは分からないがお願いをしてから闇エリアに一歩、足を踏み入れた。そして顔が半分入るとユアはすぐさま、闇エリアから顔を出し、足を抜いた。




「なに?ここ。入った瞬間、圧力がめちゃくちゃかかってきたんだけど。これは無理だね。砂漠行ってみよ。【土の覇者】だし。」




ユアはこの圧力がかかってきて体が重たくなるエリアに【神速】で突っ込んだ親友がいるとは思いもせずに砂漠エリアへと向かったのだった。


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