第19話 攻略からの二層へ

「アヤネ、ナイス!!」




アヤネの【神速】が終わり、ユアのところに戻ってくるとユアがアヤネにそう言った。




「あとはよろしく。」




アヤネがそう言ってサティの方に行こうとする......のをユアが止めた。




「アヤネ、一緒に頑張ろうね。」




「いや、今、頑張った。」




「うん、分かってるから。頑張ろうね。」




「いや、あの、頑張った。」




「大丈夫、分かってる。ちゃんと分かってるから。ね?頑張ろう。」




「え、あ、うん、分かった。」




ユアが会話をしてくれないためアヤネはサボるのを諦めた。




「それじゃ、行こう。赤色になったから。あとちょっとだよ。」




「そう、だね。」




「アヤネ、使えるスキルは?」




使えるスキルを聞かれたアヤネは使えるアイテムをユアに渡した。




「仕方ない。やっぱり、ユアにも削ってほしいから。上げるよ。」




「.....手裏剣と煙玉?」




毒手裏剣と毒煙玉の2つをユアに渡すことで自分はサボっても大丈夫、にしたいだけのアヤネは満面の笑みである。




「それ、毒ね。」




アヤネがユアに効果の説明をする。




「なるほど、私にこれを渡して自分はサボろうって魂胆ね。ていうか、それよりもあのゴリラの攻撃パターンの観察行ってきてよ!!赤になったんだし。」




「イヤだよ!!だってあれ、見るからにヤバイじゃん。」




ボスのゴリラは元々大きかったのが更に大きくなって背中の毛色が白くなっていく。




「サティが攻撃してるけど1mmも減ってないよ。」




「アヤネ、落ち着いて。行ってらっしゃい。」




「ヤダ!!私は行かない!!」




「ならじゃんけんで負けた方が行こうか。」




「.........わかった。」




「「じゃんけん、ポン!!」」




アヤネがチョキ、ユアがグー。アヤネの負けだ。




「アヤネ、良いこと教えてあげる。アヤネはじゃんけんの時、最初はだいたいチョキを出します。」




「え?」




ユアは今までの友達生活でよく見ていた。じゃんけんでアヤネが何度もチョキで負けているのを。




「負けたわけだし、アヤネさん。行ってらっしゃ~い。」




ユアがアヤネを送り出そうとしたその時、どこからともなくたくさんのゴリラが現れた。




「!!ユア、どうやら観察する余裕はなさそうだよ。」




「そうみたいだね。」




突如として現れたゴリラの集団はボスよりかは小さいが、それでも現実のゴリラよりかは大きい。




「そういえば、ゴリラって群れで生活してるらしいよ。」




「そうなんだ。てことはボスの群れってこと?」




「そう、じゃない?」




ゴリラの集団はアヤネとユアが作戦をたてる暇は与えないらしい。それは2人にとっては想定内だった。だが、サティのところに向かうゴリラもいた。




「ユア!!」




ユアはアヤネのその一言でアヤネの意図を正確に理解し、サティの元に向かう。




アヤネはユアの後を追うゴリラの意識を自分に向ける。




「【釘付け】!!」




ユアを追おうとしていたゴリラはアヤネが【釘付け】を発動した瞬間、立ち止まり、方向転換してアヤネに向かってくる。




「そうそう。私に付いておいで。」




アヤネはインベントリから爆裂手裏剣を取り出し、投げる。それはゴリラに当たり、爆発するがこちらも防御力が高いのかダメージは入らなかった。




「こいつらも硬いのかよ。なら、」




それならばとアヤネはインベントリから撒菱を大量に取り出し、自分が通った所に落としていく。




ゴリラたちはアヤネを追っているためアヤネが通った道を通る。そして、撒菱を踏むと、動けなくなり、毒によるダメージも入りだした。




【撒菱】


【忍具生成Ⅱ】になるとMPを20消費して作ることが出来る。毒、麻痺、爆発のいずれかの効果を付与出来る。




「手裏剣はちょっと消費しすぎてるから。これで倒れてほしいんだけど。」




麻痺によって動けないゴリラを踏み付けながら後続のゴリラは突っ込んでくる。




「予想はしてたけど、やっぱりそう来るか~。仲間意識はちゃんと持たないと。」




アヤネはさらに2つの煙玉を取り出し、先頭のゴリラに投げる。それらはゴリラに当たると弾け、煙となる。そしてぶつけられたゴリラとそこを通ったゴリラは全て、倒れ、毒のダメージを受け続けている。




「とりあえずはこれでよし、と。ユアの方は━━━━!!」




アヤネが自分の方は片付いたためユアの手伝いに行こうとユアの方を見るとボスのゴリラと小さいゴリラ5匹に攻撃をされていた。








♢♢♢


アヤネにサティを任されたユアはサティの近くに行く前に2匹のゴリラを倒した。




「あと5匹。ヤバいね。これは。サティから貰ったアイテム使っとこ。」




ユアはサティから貰ったSTR値を上げるボーションの2本目を飲んだ。




「ボスじゃなくても硬いのは変わらないんだね。」




ユアは戦闘力がほぼ皆無なサティにゴリラを近付けないために少し離れたところでゴリラの相手をすることにした。




「さあ、誰からでもかかっておいでよ。」




ゴリラたちは全員、同じタイミングでユアに飛びかかる。




「!!マジ!?」




ユアは慌てて1番近いゴリラが着地する前にそのゴリラの股下をスライディングしてゴリラ包囲網から脱出した。




「時代劇みたいに1人ずつ来てよ。一気に5匹とか無理なんですけど。」




ゴリラたちがそんな愚痴を聞いてくれる訳もなく、すぐさま囲まれた。ただ、ちょっと「は?」ってなる方法で。




「........いや、仲間をぶん投げて私の退路を塞ぐなよ。」




そう、ゴリラがゴリラを投げたのだ。またもや囲まれたユアに更なる絶望が降りかかる。それは......




ズシン、ズシン、ズシン、




段々と近づいてくるその音がなんなのか。見ずとも分かってしまった。




「ここでボスのご登場ですか。無理だよ、流石に。全員の相手は。なら、逃げるっきゃない。」




ユアは小さなゴリラたちが振り下ろした腕を躱し、その腕に乗るを繰り返し、5匹の攻撃を躱すとボスがいない方に走る。ゴリラの頭を踏み、跳び、転がり、走り始める。




「ニヒッ。【リターンポジション】」




ゴリラたちはユアを追いかけていく。ここまではユアの思惑通りだ。しかし、思惑通りに動いてないモンスターがいた。.....ボスだ。ボスはその場から一歩も動かず、ユアを見ていた。そのまま5秒が経ち、ユアは小さいゴリラを巻いた。そして、ボスと相対した。




「マジ、ないわ~。ここに止まってるとか。」




(HPゲージが赤色になり、ボスのSTR値は最初よりも上がっているはず。それは範囲も同じ。なんの回避スキルも使えない今の私に回避する術はない。しかもボスはすでに腕を振り下ろしている途中。.....ん?回避スキルを使えない?あるじゃん!!【潜り土】が!!移動も出来る有能スキルが!!)




ボスゴリラの拳にユアが潰される直前、




「残念でした。【潜り土】!!」




ユアは土に潜った。そして土の中からボスの拳をぶっ刺した。土の中にいるとSTRが上がる装備を持っているユアの攻撃はボスにしっかりとダメージを与え、ダメージエフェクトを出させた。ほんの少しだけ。




「土の中には攻撃出来まい。でも、こっちからは攻撃出来る。残念でした~。しかもほんのちょっと削れてるし。やったね!」




ユアはこのままだと地上に出た瞬間にゴリラの足に踏み潰されるため土の中を移動してゴリラの集団から離れた地上に出た。すると、10匹近いゴリラの集団を片付けてアヤネがやって来た。




「ユア、大丈夫そうだね。囲まれててヤバイと思ったけど。」




「うん、大丈夫。【思考超加速】が無かったら今ごろご臨終だね。」




「ノーダメージで良かったね。本当に。」




「さてと、お喋りしてる暇は無いから簡単に言うね。私の【釘付け】は今、使えない。けど、どうにかして小さいゴリラは私が相手するからボスゴリラをよろしく。」




「わかった。死なないでね。」




アヤネの案にユアは2つ返事で返す。




「それじゃ。」




「うん。」




アヤネは何度目か分からないほどお世話になっているインベントリからまた、手裏剣を出して小さいゴリラに投げる。そしてそれは爆発した。小さいゴリラたちはアヤネを襲う。その隙にユアはボスの正面に走る。




「さあ、ボスゴリラ。そろそろくたばってくれても良いんだよ。疲れたでしょ?休憩させてあげるから。」




ユアはボスの懐に入り、今までのレベル上げで取れたスキルをフル活用してボスに攻撃をした。




「まずは、【パワースラスト】!!」




ユアはゴリラの脚を突き、勢いそのまま駆け抜ける。勢いが無くなり、止まると振り返り、続けてスキルを使った。




「【スプリングストリーム】」




ユアは高く跳び、ゴリラの右肩から左足の付け根までを斬りながら降りる。そして着地すると一回転して左足を斬り、もう一度跳ぶ。今度は斬りながら上がっていき、ボスのゴリラよりも高い位置まで来ると刀を頭の上に構え、落下と共に刀も振り下ろす。それはゴリラの脳天から真下をキレイに斬った。ボスゴリラはそれでもまだ倒れないためユアはさらにスキルを使う。




「【タイフーン】」




ユアは着地するとすぐに回転斬りを繰り出し、ダメージを与えていく。




「ホントに硬いね。スキル使ってもあそこから半分なんて。それとも私のSTRが低すぎるのかな。」




ユアがそう言いながらボスを見るとボスがドラミングをして衝撃波を出す。




「え、ヤバ!!【土壁】!!」




ユアの前に土の壁が土から出てくる。それは衝撃波からユアを守り、衝撃波の威力で崩れた。




「ギリギリだね。【土壁】の後ろに衝撃波は来ない、と。」




ユアが衝撃波を回避出来て安心していると後ろから大量のゴリラがものすごいスピードでこちらに向かってきていた。






◇◇◇


ユアにボスを任せたアヤネはユアを襲っていたゴリラと麻痺させて一時的に動きを封じていたゴリラの17匹に追いかけられていた。




「これ、ヤバイ。増えおにで最後の最後まで残って追いかけられる気分だ。」




アヤネは先程と同様に撒菱と煙玉を使っているのだが、数が多い。撒菱を投げて麻痺させても後続は麻痺してるゴリラを踏んで来る。煙玉で麻痺させても撒菱で麻痺してたゴリラが避けてくる。麻痺が解けたゴリラは仲間のゴリラを投げてゴリラ砲弾にして攻撃してくるし、投げられたゴリラはちゃんと着地して進行方向を塞いでくる。動けるゴリラは全員で囲んでくるし、動けなくなったゴリラもアヤネの行く方向を予測してそこに向かってるから気付いたら前にいる。こんな風にこのゴリラたちは面倒臭いことこの上ないモンスターたちだった。しかし、永遠に続くかもしれないと思われた状況は突如、終わった。いきなりゴリラたちがボスの元に戻って行ったのだ。




「........え?あ、ちょ、ちょっと待って~。ユア~、気を付けて~。そっち行った~。」




アヤネはゴリラたちを追いかけるがゴリラたちも速く、あまり差は縮まらないままユアとボスのところまで来たのである。








◇◇◇


ボスの元に戻って来た小さいゴリラたちはボスを守るように囲んだ。




「アヤネ、これ、ヤバくない?」




「ヤバイね。ていうかさ、難易度設定おかしくない?」




「おかしい。強すぎる。リリースからまだ15日だよね?」




「うん。15日だよ。」




「どうする?」




「相手が数で来るなら私たちも数で行こうか。【土人形】【分身】」




「おっけー。【土人形】【土人】」




アヤネとユアのスキルでアヤネが4人、ユアが2人、土のゴーレムが1体という戦力になった。




「ユア、そのゴーレムは?」




「【土の覇者】の3つ目。アヤネに言ってなかったやつ。」




「なるほど。」




「それじゃ、行こう。」




ゴリラたちとアヤネ&ユア連合軍が向かい合って一斉に敵に向かって走り出した。




小さいゴリラたちはスキルたちに任せ、本体はボスに攻撃する。




「【パワースラッシュ】」




「【ダブルスラスト】」




ユアがボスを斬り、アヤネがボスを突く。




「よし、あとちょっと。アヤネ、毒のない?」




「全部、使っちゃった。」




「そっか、じゃあ普通に削るしかないんだね。」




「そう。ごめんね。」




「大丈夫だよ。じゃあ、決める?」




「決めようか。」




「【ダイヤモンドスラッシュ】」




「【火遁】【変わり身】」




ユアは刀の軌道がひし形になる4連撃スキルを発動し、アヤネは【火遁】と【変わり身】を使ってボスの顔に登り、最後の爆裂手裏剣をインベントリから取りだし、顔に落とす。




「【水遁】」




手裏剣を落とすとアヤネは爆発する前にユアのところに転移して離脱した。




ユアは既にスキルの攻撃が終わっており、地面に立っていた。




ドーン、




爆発音が響き、全てのゴリラがパリン、と音を立てて消滅した。




アヤネとユアは顔を見合わせると一拍置いて、抱き合った。




「「やった~、倒した~。」」




「サティ~、倒したよ~。」




アヤネとユアが喜びを分かちあい始めてから少ししてサティが2人の近くにやってきた。




「私ぃ、なんにもしなかったよねぇ。ごめんねえ。」




「大丈夫だよ。何にもしてないなんてことは無い。」




サティが合流すると3人の前に大きな扉が現れた。




「これって、2層に行く扉?」




「そうだと思うよ。」




「倒したものねぇ。」




「それじゃ、行こうか。」




「「うん。」」




3人でドアノブを持つと掛け声に合わせて扉を開けた。




「「「せーの、」」」




ギイィィィ




こうしてプレイヤー最速でアヤネとユアとサティは2層に足を踏み入れた。


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