第18話 サボりからの毒

ユアはアヤネに飲まされる形で口にポーションをぶちこまれ、STRを上げるとアヤネに押されてゴリラの正面に立たされた。




「ちょっとサボってただけなのにここまでする?」




アヤネはサティに情報を伝えると言ってサティのところに行ったが、正直、伝えて意味のある情報はない。とユアは思っている。つまり、アヤネもサボっている。証拠にサティが射っていた矢が一本も飛んできてない。話を聞くぐらいは射ながらでもできる。二人でサボってるのだ。ユアはそう結論づけた。それでも、ちゃんとゴリラの相手をする。




一方、ユアからサボってる判定を受けているアヤネとサティはちゃんと...サボっていた。




「アヤネ、そろそろ戻らなくても良いの?」




「大丈夫だよ。ユアもサボってることは分かってるだろうし。バレてるならとことんサボっちゃおうと思って。」




アヤネはアヤネでユアのことはお見通しらしい。




「なるほど。これが親友の信頼というやつか。」




サティは『親友』という存在がイマイチ分からない(親友ができたことがない)らしく『親友』という存在について考え始めた。




「じゃあ、そろそろ戻るよ。」




「うん。行ってらっしゃぁい。」




アヤネがゴリラの元に戻ると動きがかなり遅いユアが潰されかけていた。




「え?あれ、ヤバくない?【水遁】!!」




ユアがアヤネの隣に転移して、さっきまでユアがいた場所にはゴリラの拳が地面にめり込んでいた。




「ユア、何があったの?」




アヤネはユアの状態を見て声をかける。




「なんかバナナの皮を地面に擦り付けられて、擦り付けられたところを踏んだらAGIが0になった。」




アヤネは「は?」と言って頭をフル回転させて考える。




(バナナの皮を地面に擦り付けられた?どゆこと?持ったまんましゃがんで地面に触れさせながら走ったってこと?しゃがんだまま走るってキツいよ?あ、でもモンスターだから関係無いのか。)




アヤネは早々に思考を放棄するとユアに確認をとる。




「バナナの皮のエキスを踏んだらAGIが0になったんだよね?」




「そう。あの、地面から草が消えてるところ。バナナの皮エキスで枯れた。」




「バナナの皮って、そんなに有害なの?バナナコワイ。.....まあ、とりあえずは理解した。」




「私、【土化】も使って躱したんだよ。もうね、躱すスキルない。」




それを聞いたアヤネは口角を吊り上げてこう言った。




「あるじゃん!ユアのお気に入り。【リターンポジション】が。」




「!!そ、それは、私のお気に入りってわけではないんだよ。その、」




「その?」




「えっとー、あ!ゴリラが来てるよ!!早く逃げないと。」




アヤネとユアが話している間をゴリラが待ってくれるはずもなく近づいて腕を振り上げていた。




「ユアはそうだね。だけど私は今からでも逃げれる。」




アヤネは今までの戦闘で分かった攻撃範囲の外に出る。




「アヤネ、助けて。」




「ファイト。【土潜り】」




アヤネは攻撃範囲内だったときのために一応、土に潜る。否、ユアにそのスキルを見せる。




「あ、【土潜り】!!」




ユアも同様に土に潜る。その直後、ユアがいた地面にゴリラの拳が突き刺さる。ゴリラが拳を地面から離すとゴリラの拳があった場所からユアが、少し離れたところからアヤネが出てくる。




「助かったよ!アヤネ、ありがとう。」




「存分に感謝したまえ。」




「さて、アヤネ。AGIが0の私は戦力外なのでサティのところまで下がっとくね。」




「分かった。けど、【土人形】出して。」




「了解。【土人形】」




ユアがもう1人現れるとゴリラに突っ込んでいく。




「じゃあ、黄色にしてくるね。【土人形】【分身】」




アヤネが合計で4人になる。4人のアヤネと1人のユアがゴリラに向かう。合計、5人から攻撃を受けるゴリラのHPは今までよりも確実に減っていき、すぐにHPバーの色が黄色になった。その瞬間、ゴリラがドラミングをして衝撃波を出す。衝撃波によって2人のアヤネが揺らめいて消え、1人のアヤネと1人のユアは崩れて消えた。本体のアヤネは少し離れていたためダメージは0だ。




「なに、あの衝撃波。不可避?」




ゴリラはドラミングで衝撃波を出したあと、地面を思いっきり叩く。すると、叩いたところから放射状に地面にも衝撃波が出てきてアヤネは思わず、【火遁】を使ってサティとユアの元へ行く。




「アヤネ、どうしたの?」




「衝撃波が怖すぎる。あれは、ヤバイ。多分、躱せない。」




「詰み?」




「え、詰ませないよ?」




「詰んでたらゲーム性崩壊しそうだしねえ」




「さてと、どうするかな。」




「とりあえず、ゴリラの気を引いてて。私が動けるようになるか分からないけど動けるようになったらすぐ動くから待ってて。」




「分かった。待ってるからちゃんと来てよ。」




「もちろん!!」




「行ってくる。」




「私ぃ、また空気ぃ?一緒にいるのにぃ。」




同じ場所に固まっていても空気になるサティには少し、同情する。




アヤネは【思考超加速】と【忍頭巾】で4.5倍にまで上がった思考速度をフル活用しながら考える。どうすれば削れるか、どこに弱点があるか。そしてアヤネが導き出した答えは「私は、だけど頭を攻撃すると2倍になるからやっぱり頭だね。」と近くに誰もいないのにドヤ顔で言い放つ。




アヤネはインベントリから麻痺手裏剣、毒手裏剣を取りだす。




「そういえば、毒はまだ使ってなかったね。えいっ、」




アヤネは毒手裏剣をゴリラが横薙ぎに振るってくる腕に跳びながら投げる。跳んでから、普通のジャンプじゃ躱せないと分かり、少し考えたあと、持っている双短剣を迫る腕に振り下ろす。そして腕に双短剣が当たった瞬間に振り抜き、その勢いで体を前向きに1回転させる。勢いが強すぎて体勢が崩れたが受け身を取って転がる。




「いや~、危なかった。モグラと穴でした追いかけっこ以来だよ。あんなにヒヤヒヤしたの。」




毒の攻撃は他の攻撃よりも効くようでユアの刀やアヤネの双短剣、サティの弓矢よりもHPゲージの減りが早い。




「お!毒は効くんだ。そうだよね~、毒はVIT関係ないもんね。それならこれもどうぞ。」




そう言ってアヤネがインベントリから取り出したのは煙玉だ。ただし、毒煙を発生させる煙玉だ。




【煙玉:毒】


【忍具生成Ⅲ】になると作れるようになる。1つ作るのに消費MPは25。毒煙が舞い、その煙を吸い込むと5秒間、毎秒10ダメージ受ける。なお、使用者が吸い込んだ場合もダメージを受ける。




「ゴリラさんはそろそろくたばってください。」




アヤネはゴリラの顔に向かって投げるが顔には届かず、鳩尾の辺りで煙になった。




「届かない。どうしよう。どうすれば........」




どうすれば顔に届くかを考えていると、1本の矢が視界に入った。




「これだ!!」




アヤネは全速力でサティのところに戻る。




「サティ、サティの矢にこれを取り付けて射れない?」




煙玉をサティに見せながら説明する。そしてサティは説明を聞き終わるとすぐに結論を出した。




「うん、無理ぃ!!」




「え!?なんで~?」




「ここはぁゲームだからぁ。システムによってぇそういうことはできないようになってるのぉ。」




「そっか。ごめんね。あ、ユア、まだ?」




「はあ、私に声をかけずに行ってくれればサボれたのに。」




悔しがるユアを見てアヤネは「危なかった~。ほら、行くよ。もう、サボらせないから。」と言ってユアを引っ張る。




「さて、戦闘開始から30分経ったから【神速】でこれ、かましてくるね。」




アヤネは手に持った煙玉をユアに見せながら【神速】を使って煙玉をプレゼントしに行った。とユアが思っていたらボスのゴリラの顔で煙が立つと間髪入れず、顔で爆発が起きた。ユアは「あれ?」となるが【神速】で移動中に爆裂手裏剣を取り出したのだろうと解釈する。さらに、ゴリラの動きが止まった。麻痺だ。アヤネはAGIが3倍になっているためインベントリから取り出すのも速くなる。そのため、間髪入れずに攻撃しているように見える。【神速】の効果が消えた10秒後、ゴリラのHPバーは赤色になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る