第17話 硬すぎからの回復

ボスが寝ている間に話した作戦通りにユアがボスの背後へ、アヤネが正面へ立つ。




ボスゴリラはアヤネへの攻撃として腕を振り下ろす。それはアヤネにとってもちろん即死級の攻撃だが、当たらなければ意味がない。アヤネはゴリラの拳が大きすぎて躱せないと判断し、【変わり身】を使ってゴリラの懐に入るとインベントリから爆裂手裏剣を取り出す。そして鳩尾の辺りに投げつけ、【火遁】で背中にいるユアの隣に転移する。




「おお、こっちに来るのね。」




「え?まあ、うん。サティのところからだと戻る前にユアが死んじゃうから。」




「私はそんなに貧弱じゃない!!」




「にしてもHP、あんまり減らないね。背中はどう?」




「見て分かるでしょ?」




「まあ、一応。」




ユアは今、ゴリラの背中に長剣を突き刺しながら疾走している。それにアヤネが隣で走って情報共有しているのだ。




「弱点、探さなきゃだね。」




「じゃあ、私は戻るね。」




この会話の間、ボスのゴリラは鳩尾で起こった爆発によって上体が大きく反らされている。ユアとアヤネは傾斜角75度の坂を疾走していたのでそれなりにキツい。だからアヤネはもうちょっとしたかった情報共有を早めに切り上げて自分だけ逃げた。




その頃サティは色々と首をかしげていた。




「弓が全然、効かないぃ。それにあの2人はよくあんな急な傾斜を走れるわねぇ。若いって良いわねぇ。それから何ぃ?アヤネが持ってるアイテムぅ。強すぎなぁい?AGI極振りなのにどうしてアイテムを作れるのぉ?もぉ、なんかぁ、不思議なことが多すぎて考えるのもバカらしくなってきたぁ。不思議に思ったことはぁボスを倒したら問いただすとしてぇ、矢をどんどん当てて仕事しないとねぇ。あんまり意味なさそうだけどぉ。」




サティはすでに30本ほどの矢をゴリラに当てている。それに加えてユアの攻撃とアヤネの手裏剣がある。それでもまだ4分の1も削れてない。




「もぉ、なんなのよぉ。硬すぎるでしょぉ!!」




それ故に大声で叫んでしまうのも無理はなかった。




一方、アヤネはユアから離れたあと、ゴリラの正面に走って戻り、ゴリラの気を引いていた。




「あー、あり得ない。硬すぎ。これは運営が2層に行かせないようにしてるね、多分。だけど、行かせてもらうよ。」




アヤネはゴリラの攻撃を躱しながら振り下ろした腕に攻撃をしつつ、走り回る。




「これ、リアルだったら、もう、地面の染みになってるよ。ユア~、変わって~。」




「イヤだ~。アヤネは~、スリリングな方が良いんでしょ~。」




ゴリラの向こうからユアが叫び返す。




「あ、そう言えばユアに言ったわ。助けるのが遅いって言われた時に言っちゃったよ。よく覚えてる。くそっ。」




「変わってほしい」と言いつつもしっかり喋りながら躱せているところは流石、AGI極振りといったところか。




アヤネはインベントリから爆裂手裏剣を3つ取り出す。




「ふふん。私は顔に攻撃するのが一番火力出るんだよ、ゴリラくん。【目潰し】の効果を存分に味わってくれたまえ。」




アヤネはゴリラが振り下ろした手に跳び乗ると腕の上を走って顔に近づいていく。だが、それを阻止するために、もう片方の手でアヤネを潰しにくる。




「それは無しでしょ!?もう、【水遁】」




アヤネは使えるようになって間もない【水遁】を使ってユアのところへ一時離脱した。




「あれ?戻ったんじゃなかったの?」




「腕を走ってたらもう片方で潰されかけた。」




「なるほど。顔に向かってたんだね。」




「そう、だけど離脱方法を今、使ったから行けない。」




「【クライシスディフェンド】は?」




「硬直するでしょ!」




「【リターンポジション】は?タイミングをミスったらジ・エンドだけど。でも、それをやるのが、アヤネでしょ?」




「やってやるわよ。見てなさい!っていうかユア。なんでサボってんの?」




ユアはゴリラから15mほど離れたところにいるのだ。




「ほら、行くよ。」




「分かったよ。」




アヤネはダッシュでゴリラの背中を駆け上がる。肩甲骨の少し上まで登ったところでアヤネは賭けをした。




「【リターンポジション】!!」




5秒後にこの場所に戻ってくる。つまり、タイミング良く顔に投げないといけない。アヤネが顔まで登ったところで残り3秒。頭の頂点に立って手裏剣をアヤネの顔の高さから落とす。2秒、1秒、0秒。


ドゴドゴドゴーン




3つの手裏剣が少しずつタイミングがズレて爆発する。アヤネはスキルを発動した場所で......硬直していた。




「ヤバイヤバイヤバイ。ミスった。3秒の硬直はホントにキツい。」




ゴリラは爆発の威力で倒れそうだ。なんなら、すでにアヤネも滑り落ちている。アヤネは空中。このまま地面に着地、落下すれば間違いなくダメージを受ける。アヤネは【思考加速】がレベル15になって進化した【思考超加速】を使ってダメージを受けない方法を考えるが使えるスキルがクールタイムになっているため思い付かない。そして、地面に落ちるまで1mのとき、急に体のスピードが速くなり、誰かが自分を抱えている。その人は緑の服と黒と茶色を1:3で混ぜたような色のズボンを装備している。そう、ユアだ。ユアもまたレベル20までノーダメージのプレイヤーだ。そのため、【神速】の`AGIが3倍になる´よりも小さいが【神速】の前段階である【超加速】はAGIが2倍になる。




「ユア、ありがとう。助かった。」




「当たり前でしょ。アヤネなら失敗すると思って動いてたんだから。」




ユアはアヤネがゴリラ登りを始めた時、ゴリラの右真横に移動していた。でも、アヤネが落ちる方ではなかったため、【超加速】を使ったのだがここでは言わない。




「成功するって信じててよ。」




「私は知っている。アヤネは賭けが下手なことを。苦手なことを。私は知っている。」




「まあ、とりあえず、ありがとう。」




「へへん。どういたしまして。」




「見て!!結構、減った!!」




アヤネはゴリラを指差し、こう言った。ユアがゴリラに目を向けるとHPゲージが黄色になったゴリラがいた。




「攻撃パターンが変わります。なので私は観察します。なので1人で頑張ってください。」




「ちょっと待とうか。」




ユアはボスから逃げようとしたアヤネの首を掴む。




「離すんだ!!私は観察をする!!」




「戦った方が観察もしやすいと思う。やっぱり体感しないと分からないこともあるでしょ?」




「......はあ、わかった。戦うよ。」




アヤネとユアが言い合っているとゴリラの後ろに大きなバナナの木が生えた。




「「「なに(ぃ)?あれ(ぇ)。......バナナ!?」」」




アヤネとユア、そして離れたところにいるサティは同時に言った。




「あのバナナ、どうするんだろ。皮をそこら中にばらまくとか?」




「ギャグアニメか!!」




「バナナを投げる?」




「食べ物は粗末にするなよ。」




「食べたのを吐き出すとか?」




「一番、イヤだ。」




アヤネとユアで漫才をしているとゴリラがバナナを取って食べた。




「アヤネ、最後のみたいだよ。」




「いや、違うだろ。」




ゴリラはバナナを飲み込むとHPが少し回復し、バナナの木は消えた。




それを見た3人は驚いたあとにすぐ怒り出した。




「「「.......は?」」」




「せっかく削ったのに回復なんかするんじゃない!!このゴリラ!!」




「アヤネ、ついにこれを使うときが来たようだ。」




「そ、それは...」




「サティに貰ったSTR値を上げるアイテムっていうかポーション?」




「ついに」という単語に引っ掛かったアヤネはユアに聞いた。




「...........ねえ、今まで使ってたの?」




「使ってないけど。」




アヤネの顔から表情が消えた。そして、ニッコリと微笑んだ。




「そうなのね。.....最初から使っとけよ!!バカなの?さてはバカなんでしょう?」




「え?アヤネ?」




「バカはバカらしく脳筋になっとけ!!さあ、ちゃっちゃと飲んで突っ込んでこい!!」




「は、はい!!」




あまりの迫力にうっかり返事をしたユアだった。


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