第59話 予見

 森の奥から見える大きな火の手が、木々の影を色濃くして辺り一帯を照らしている。被害が出ているのだろうか、兵士の中には不安な顔を見せる者が大勢いるが、おかげで夜の暗い森の中を、全速力で進む事が出来ている。


 隊長と名無しを乗せた馬を先頭に、騎馬隊が続く。全ての馬が風魔法を使って疾走する後ろに、長く伸びる土煙が勢いを可視化していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 隊長に連れてこられて、今から火竜と戦う為に向かっているが、実際何が出来るのかと考えていた。しかし、火竜を見た事が無い俺は、悩んでも仕方ないと心を決めて、コーラルさんの言いつけを守る事に専念する事にした。


 「先は見えた、村は近いぞ」


 さっきまで曲がりくねっていた道が真っすぐ伸びて、俺達と火の手を遮る物が無くなっていた。道の上に、動く小さな影が幾つか見えた。


 「村人がいるぞ、轢かない様に進め。後方の二人、保護してやれ」


 馬の速度を落とさず、逃げてきた村人達を避けて進んで行った。


 俺の視線の先には、火の海より高く姿を現した巨大な影が照らされて、赤い鱗と鋭い牙、まさしく【竜】が家畜を襲っているのが見えた時、俺に不思議な感覚が過った。


 既視感と言うのだろうか、この光景を見た事がある。この後火竜が俺の方を向く。そう予見してみると


今、横を向いていた火竜が、山道にいる村人達に顔を向けた。


 「!!」


 俺はこの後の起きる事を知っている。思い出して目の前の現実と照らし合わせると、逃げている馬車の近くに、親子が見えた。母親が男の子の手を引いて走っている姿が。


 火竜の口が眩しく光り始めた。


 それを見た俺は、咄嗟に馬達と同じ様に足裏から風を出すイメージを強く念じた。


 「借りるぞ」


 そう言って、馬に掛けてあった大盾を奪い、前方に向かって飛んで行った。


 「あっ!?、おい!!」


 隊長の制止が聞こえた時には、俺は馬よりも速く宙を飛んでいた。


 「うおおおおおおおお」


 想像と違って制御が出来ない。雄叫びとも悲鳴ともとれる叫びを上げながら、火竜の口から炎が吐かれ、村人達が襲われるのが見えた、馬車も炎に飲まれ、あの親子に襲い掛かろうとしていた所へ何とか割って入る事が出来た。すかさず大盾を前面に構えて炎を遮る。


 「ぐおおおおお」


 熱もさることながら、押し返されそうな威力に、その場で堪えながらも、親子の様子を見ると、二人は無事だった。身を挺してしゃがんでいる母親の腕の隙間から見ている男の子と目が合った。


 「大丈夫か?」


 会話をする余裕が無く、安否確認だけしたら、男の子は小さく頷いて見せた。


 「全騎抜刀!」


 『おおっ!!』


 隊長の号令で騎馬隊が槍を前に構え、後ろに乗っている歩兵が剣を抜き、火竜に突撃を開始した。


 騎馬隊は火竜を掠める様に進んで槍を刺し、剣を振るったが、表面に少しキズを付けるだけで弾かれた、旋回と突撃を繰り返して火竜を攪乱している。そのおかげで狙いが騎馬隊に移った事で炎が止んだ。


 「足の付け根と膝関節の裏を狙え、旋回時はもっと距離を取れ」


 途中で村人を保護した兵士が二人戻って、隊長の護衛に付いている。隊長は、その二人に火竜と周囲の警戒を任せて、親子に他の村人達と一緒に湖畔の村に行く様に伝えていた。親子は何度もお礼を言いながら山を降りて行った。


 「・・・・・」


 親子を見送った隊長に睨まれている俺は、「・・・いい盾だな」持っている盾を返そうとすると


 「まだ持っていろ。それと、さっきの様に飛ぶのは無しだ。いいな?」


 「すまなかった」


 早速勝手な事をしたと反省している。


 「まぁいい、おかげであの親子は助かった、でかしたぞ。それで名無し、火竜を見るのは初めてか?お前ならどう戦う?」


 隊長と同じ方向を見ると、火竜の右下半身に集中して、兵士達は打っては離れるを繰り返して翻弄している。皮膚の柔らかい所を狙っているらしい、兵士に怪我人は出ていない事と火竜の息遣いが荒くなってきた具合から、状況はこちらが有利の様だ。


 どう戦うと問われて、まず思った事は、さっきの一度だけで火竜が炎を吐いていない事に違和感を覚えていた。村が燃えているのも火竜の炎だとして、吐ける回数が決まっているのか?俺が火竜なら足元に炎を吐いて兵士達を近付かせないようにする。などと考えていたら、火竜の背中からコウモリの様な翼が大きく広がるのが見えた。


 所々穴が開いてボロボロの翼だ。


 翼をバタつかせて、火竜は浮いた。森の木の半分の高さだが兵士達の槍は届かない。大きなジャンプの様に移動して、奥から火竜・兵士達、俺という位置付けになった。


 大きく息を吸って上体を反らせた火竜の口が輝き出した。


 「防壁!!」


 分隊長の合図で、横一列になった兵士達は、前にかざした手の平から風魔法を出して炎を防ごうとした。


 「ぐあぁぁぁぁ」


 風の防壁を破って、炎が直撃した兵士が火だるまになって叫びながら転がったが、他の兵士は防御で手一杯だった、隊長が護衛の兵士に加勢するように指示を出して二人の兵士が援護に向かった。炎を受けた兵士は消火され、火傷を負ってぐったりしていた。道の脇に引きずられ応急処置を受けている。


 火竜の炎が止んだが、兵士達も火竜も膠着状態と言った感じだった。


 「このままではジリ貧だな。火竜はまともに飛べない様だ、逃がさず牽制して歩兵隊が合流するまで持ち応えるぞ」


 「隊長、このままあいつを逃がすとどうなる?」


 「別の村がここ以上の被害を受ける事になるな、近くに俺達が居たからこの程度の被害で済んでると見た方が良い。村は全滅、火竜も見失う事が普通だ」


 村の建物は燃えている物もあるが、まだ殆どが半壊に至るかどうかの状態だった。助けた親子が逃げた先、次に狙われる確率は湖畔の村が高い。


 「俺に考えがある。この盾は借りていて良いんだよな?」


 「何をする気だ?」


 「隊長!村の子供が」


 防壁を張っていた兵士の一人が、燃える村から女の子が泣きながら歩いているのを見つけた。火竜も気付いたのか、動きが見えた時、俺は足に風魔法を集中して、体が少し浮いたのを確認した。つま先で地面を軽く蹴ると、前に進んだ。交互に地面を蹴って滑る様に速度を上げる、走るよりは早かった。そのまま兵士達の脇を通って女の子を抱きかかえた俺は、火竜の振り回した尻尾に吹き飛ばされ兵士達の前に仰向けで滑り戻って来た。


 「警戒防御。この娘を村まで送ってやれ」


 隊長が兵士達に指示を出して、一人の兵士が娘を乗せて、馬で駆けて行った。一人の兵士が俺を立たせてくれると、隊長と向き合う形になった。


 「頑丈な奴だな」


 俺が負傷していない事を確認した隊長にからかわれた。


 「普段はどうやって倒しているんだ?」


 火竜の攻撃は凄まじい物だと身をもって味わった俺は、戦い方を聞いてみた。


 「魔法で倒す。足に縄を引っかけて地に落とす。どの国でも似た様な方法で討伐の報告は聞いているが、成功例としては少ない。大抵は追い払う、だ。それでも大人数が必要だ。どこかの国で昔、一人の男が酒で酔わして討ち取った、なんて文献を読んだ事があるが真似する奴はいないな」


 「この人数で真っ向から戦う事はない。と」


 大人数と聞いて、今、この場所にいる戦える人間の数は大人数とは呼べなかった。


 「そうだな、怪我人が数名、死者ゼロは普段ではありえん。考えがあると言ったな、言ってみろ」


 今の状況を打開したいのか、隊長が俺の考えに聞く耳を持っていた。


 「さっき、火竜の翼に穴が幾つも開いていた、という事は遠くには飛べないと思う。炎を吐く為に上体を反らした時、つま先が浮くのが見えた。そのタイミングで火竜の近くにいる事が出来れば・・・」


 「お前一人に対して炎は吐かないだろう」


 俺の話を聞いて、ハハハと肩を叩かれながら大笑いされてしまった。


 「要は火竜の近くにお前がいる状態で炎を吐かせれば良いんだな」


 要約して隊長は、前に横隊陣形でいる兵士達に声を掛けた。


 「作戦を伝える。お前達はこのまま待機、俺と名無しが木々の間から村へ入る。合図をしたら火竜へ一斉攻撃、炎を吐かせろ。もちろん火竜の攻撃は避けて構わん、俺達が奴の懐に行くまで囮を頼む」


 手の動きも使って作戦を伝え終えると


「隊長が行くなら俺が行きます」「大体何ですかこいつは?」


 隊長が火竜の近くに行くなんて作戦に、兵士達はどよめいて、俺を指さす兵士もいた。


 「こいつに考えがあるらしい、今の状況じゃ手詰まりな上、火竜を逃がす訳にもいかん。考えがあれば聞くぞ」


 兵士達は黙ってしまった。


 「大丈夫だ、俺は近くまで行くだけだ。合図を待て」


 そう言うと俺に 行くぞ と合図をして脇の木々に身を隠しながら村の方へ進んで行く隊長の後に俺はついて行く。

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