第58話 火竜
頂上に万年雪を被っているウスベルト山脈は、大地の東西を隔てている。人々は山脈を大きく迂回して交易をしている。その山脈に並行して南北に広がっている巨大なアルベル湖の周街道が整備された事で、人と物の行き来が容易になり、国の経済は潤っていった。
山の麓に広がる森で採れる木材は質が良く、国の名産品として重宝されている。その為、伐採と森の維持管理に注力されている。
山から森を通って湖へ、静かに流れている小川の近くには、麓村の若い衆達で作った小さな村が出来ていた。
木々に囲まれたその村は、伐採した木を木材へ加工、コップや皿などの日用雑貨の製作を生業としている。元々は作業場だけだったのが、効率を上げる為に、作業場を中心に拡大した村だった。
「そっち持ってくれ」
『せ~のっ』
複数人の男性が野太い丸太を、村の中心にある作業場へ運んで行く。
作業場より山に向かって西側一帯は、柵が広がり、牛と羊が放されていた。他の建物は、学校や病院が小さく建てられ、小物作りの作業場と住居が一緒になっていた。
子供達は学校へ、怪我人や病人が少ない病院は村の平和を表していた。
午後一には王都へ木材、加工品を荷馬車で運ぶ。この生活スタイルで毎日が過ぎていく。今日も朝日で淡く染まっているウスベルト山脈の麓では、そんな当たり前の毎日が始まろうとしていた。
そんな村を、草も生えない山斜面の岩陰に身を隠して、視線を飛ばしている生き物がいた。
陽が西に傾くと、どこよりも早く夜を迎えるこの村は、どこよりも早く朝を迎える為、村人は皆、暗くなると家で家族と過ごし、床に着く。
小川の水音が村まで届くほど、村が静まった夜。家畜小屋の近くに住む男が、家畜たちの異様な鳴き声と物音で目を覚まし、様子を見に外へ出ると、家畜小屋を破壊している黒い塊を目にした。
「!?うわーーー!!!」
男の悲鳴で黒い塊は、二階建ての建物と同じ位の巨大な影になり、二つの金色の光が男を睨みつけた。
男の悲鳴で近くの家に明かりが点いて住人の夫婦がカンテラを持って出てきた。
「どうした?こんな夜中に」
夫婦は腰を抜かして怯えている男の近くに寄ると、奥さんは男に布を羽織らせ、落ち着く様に言った。旦那は男が指さす方へ灯りを向けると、巨大な影が家畜小屋を漁っていた。恐る恐る部分的に灯りが当たると、雲の切れ間から差した月明かりが、巨大な影の正体を暴いた。
『!!』
「ひっ、火竜だぁーーー」
最初の男が叫びながら走り出した。その後を追う様に夫婦が走り出す。
三人は叫びながら山道に向かって走った、村全体に明かりが灯り、村人が全員出てきてその姿を目の当たりにした。
「狼煙を上げろ」「馬を走らせて王都へ」「馬鹿野郎、斧でどうにかなるか」「家畜を助けろ」「女、子供は爺さん達の所に行け」
食事中に騒がれて気が立ったのか、火竜は鳴き声を発した。
その声を聞いて村人達は我先にと逃げ出した。家畜小屋と反対側にある馬小屋に数人の村人が辿り着いて馬に乗ろうとすると、柵を開けた途端に走り出して逃げてしまった。数頭を手懐けた村人は、そのまま馬に跨って走り出す者、急いで馬車に繋げて荷物を運び出そうとする者もいたが、大抵は山道を走って逃げて行った。
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