第60話 バッシュ

 兵士達は火竜を警戒している。距離はそんなでも無いのに整備されていない分歩きづらい、俺は隊長と木の間を通って燃えている村を目指していた。


 「隊長は皆に愛されてるな」


 先程の兵士達とのやり取りで隊長の人望が窺えた。


 「ありがたい事だ」


 隊長は短く答えると 止まれ の合図をした時、村の際に着いた事に気付いた。


 「ここからは建物に隠れて近付く、その前に言っておく事があるからよく聞け」


 隊長は神妙な顔で続けた。


 「どこの誰とも分からないお前と昨日会った訳だが、この作戦が失敗しようが、お前が怪我をしようが、俺達には大して被害は無い、その盾も後でお前の死体から拾えば良いだけだからな。何が言いたいか分かるか?」


 村の火が髪を赤く照らしている隊長の言葉を、そのままの意味で取る事も出来るが、人を捨て駒にするような目はしていない。意を汲んでみた。


 「余計な事は考えずに思いっきりやれって事で良いのか?」


 「その通りだ」


 背中を軽く叩かれた。


 「よし行くぞ」


 建物が燃える村の中を、物陰に隠れながら進んでいると、火竜が空を仰いでいたのが見えた。


 「まずいな、奴がこの村に興味を無くし始めている」


 隊長と急ごうとした時、兵士達の方から音が聞こえた。


 『おおう、おおう』


 剣で盾を鳴らし、叫び、兵士達が火竜の注意を引き続けていた。そこからは、最速で牧場の柵の際に積まれた木箱に駆け込んで身を隠した。顔を覗かせて距離を掴むと、ギリギリやれそうな見立てだった。


 「よし、合図を送る、後はお前次第だ」


 隊長は特殊な形の矢を一本、手からの風魔法を使って空に高く投げ飛ばした。


 甲高い音を立てながら矢は夜空に飛んで行き、破裂音を残した。その音で火竜が牙を剝き出しにして音のした空を睨んでいるが、兵士達の声が聞こえた。火竜は兵士達に向いて俺達には気付かなかった。


―――――――――――――――――――――――


 二人一組で待機していた兵士達は、分隊長の合図で、一人が矢を放ち、もう一人が風魔法で矢に勢いを付ける方法で、攻撃を仕掛けた。複数の矢が火竜に勢いよく当たっているが、剣や槍以上にキズが付けられていなかった、それでも矢は何度も火竜に向かって飛んで行く。


 火竜は全く動じずに兵士達を睨みつけていた。隊長と名無しは、火竜と兵士達の戦いを見守ってその時を待つ事にしたが、それはすぐにやってきた。


 矢が火竜の左目に刺さった激痛で叫びを上げた。飛んできた矢を尻尾で振り払い、口から熱気が溢れ出て陽炎が揺らいだ。それを見た名無しは、木箱の影から滑る様に火竜へ向かった。


―――――――――――――――――――――――


 火竜の尻尾に吹き飛ばされた時、似た様な衝撃を受けた事がある気がした。俺はその時の事を思いながら火竜に向かっていと、火竜の頭が空を仰ぎ、上体が大きく反れ始めた。


 タイミングとしては丁度良い。俺は、足裏から風魔法を出して滑っている上で、背中からも勢いよく出してみた、イメージは火竜の翼の様に。加速した体の前面に大盾を構え、右手、右肘、右肩、頭を盾につけて、膨らんだ火竜の腹に突っ込んだ。


 火竜からは嘔吐するような声が上がり、空を仰いだまま口から黒煙が上がる。ゆっくりと火竜の体が地面に倒れ地響きが鳴った。


 「突撃~」


 少しの間が空いて、隊長からの号令が兵士達に届いた。兵士達は倒れた火竜に群がって皮膚の薄い箇所を徹底的に刺して息の根を止めると、勝鬨を上げた。

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ユナイテッドバース こころもち @KitagawaAkira

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