第56話 討伐道中

 目を覚まして起き上がると、外で何人も動き回っている気配がある。


 コーラルさんも既に起きて、外へ出ているらしい、ベッドが空だ。


 そう思った時、テントが捲れてコーラルさんが入ってきた。


 「おっ起きたか、動けそうか?」


 そう言いながら俺に昨晩と同じシチューを手渡してくれた。


 「大丈夫だ、どこも痛みは無い。外は何かあったのか?」


俺は、シチューを受け取りながら具合を伝え、外の状況を聞いた。


 「今日で王都に帰るからな、片付けだ。お前も連れて行くが、飯を食ったらこのテントの片付けを手伝え」


 コーラルさんは机の上の物をまとめて、箱にしまっていく。


 「おはようです、飯持ってきた・・・ってもう食べてる」


 若い兵士、リーベルさんが同じシチューを持ってテントへ入ってきた。


 「おう、悪いな」


 横からコーラルさんがリーベルさんからシチューを受け取り、口へ流し込んだ。


 「丁度良い、お前・・・リーベルって言ったか?俺が荷物をまとめておくから、荷物を置く馬車を教えてやってくれ」


 コーラルさんは自分の皿と、俺の空になった皿を重ねてリーベルさんへ渡しながら、俺にリーベルさんについて行けと指示を出した。


 「はい、分かりました」


リーベルさんも手招きをしている。


 テントの外は朝霧が広がって白い世界になっていた。


 「近いけど足元には注意だな」


顔が湿ってくるのを感じながら、幾人もの兵士が動いている間を抜けて、リーベルさんについて行くと、すぐ近くに荷車と、その隣の木に馬が繋がれていた。


 森の奥から、陽が差してきて、視界が開けてきた。


 泉は神秘的な輝きを纏っていた。さっきいたテントが目の前に、周囲にはさっきより大勢の兵士が荷物を移動させている姿を現した。


 朝の空気を清々しく感じながら、荷物を荷車に運んでいく。


 「伝令ぇ!!」


 森の中に響いた声の方、周りの兵士と同じ方向へ顔を向けると、馬に乗った一人の兵士が大きめのテントに入って行くのが見えた。


 何事かと皆が手を止めてテントの方を向いていると、中から中年兵士が出てきた。


「騎馬隊、歩兵隊は全員移動準備。分隊長は集合!!馬車隊は片付けを続行、ゴミ一つ残すな!!」


 一帯が騒がしくなってきた。あそこは幹部のテントらしい。


 荷物を持って駆けて行く者、手綱を引いて馬を誘導する者、鎧と武器の金属音が忙しなさを表していた。


 俺は邪魔しない様に注意しながら、荷物運びを手伝っていた。


騎馬隊、歩兵隊の準備の終わる頃、幹部テントから出てきた兵士が一人、馬に乗って駆けて行った。その後さっきの中年兵士がのテント前で


 「全兵集合!!これより作戦を伝える!!」


 作業途中の兵士も全員テントに集まり整列していった。俺も流れのまま端の列に並ばされてしまった。


 テントの前には中年兵士が三人、コーラルさんもいた。台に乗っているのか?昨夜の【隊長】の顔が頭二つ分高く、よく見えた。


 「ここより西のウスベルト山脈に火竜が1体確認された、予想としては麓村の家畜が目当てだろう。これより我々は、先遣隊として火竜を討ちに行く。増援要請の伝令も走らせているが、合流するのに一日は掛かる。まず騎馬隊、森を抜けたら麓村まで最短距離で進め。歩兵隊、騎馬隊と二人一組としてバディを組め。全員馬で移動する、戦闘に必要な装備以外は置いていけ、少しでも軽くしろ。余った者は空いた馬車で移動。馬車隊は速やかに撤収、王都から補給物資を持ってきてくれ」


 顔つきが強張っている者、体の前で左掌を右拳で叩いて目をギラつかせている者、頬を叩いて気合を入れる者と様々だった。


 「よいか!!ここで火竜を食い止めねば、味を占めて次は群れで来るぞ。急げば陽が暮れる頃には着くだろう、我が国は幾度となく討伐してきた、倒せない相手ではないぞ」


 隊長は兵士達の顔を見渡すと


「俺はそろそろ肉が食いたい。皆はどうだ?」


 小さく ハハハ と笑い声と、俺も食べたいです。俺も、兵士側からも声が聞こえた。


「なら上物を食いに行こう。作戦開始だ」


 列がバラけて、兵士達は馬に二人乗りで集まる。馬車隊はさっきより慌ただしく荷物をまとめていった。


 「お前」


 指さしている隊長と目が合うと


 「お前も連れて行く。来い」


 「!?へ・・っ!?隊長!!身元の分からない者を連れて行くんですか?」


 コーラルさんが驚いて止めに入っている。俺の身を案じてくれているのか、作戦の邪魔になるからなのか。そう思いながら隊長の所へ歩いて行く。


 「人手は多い方が良い、ガタイも良いから役に立ちそうだ」


 「しかし・・・」


 「俺の見る目は確かだ。違うか?」


 隊長はコーラルさんに笑いかけていた。


 「俺は助けてもらった恩がある、役に立てるなら構わない」


 これからとんでもない生物を討ちに行こうとしているのは分かっているが、恐怖心は無かった。


 「よし、俺が乗せて行ってやる」


 部下に馬を連れて来させると、颯爽と跨り、後ろに乗れと合図してきた。


 馬に乗ろうとした俺を引き止めたコーラルさんから「無理な事をしなくていいが最低限、隊長に傷を負わせるな」と言われた。


 「邪魔はしないようにする」


 それだけ伝え隊長の後ろに乗ると直ぐに走り出した。


 騎馬隊の兵士達は既に出発して先に小さく見えていた。それを追う様に隊長と俺。後方に歩兵を乗せた馬車一台がついてくる。お互いの距離は縮まらずに、その配置で森の中、木々を避けながら全速力で進んで行く。


 隊長の馬には、兵士達の持っている物より一回り大きい盾と、手入れが良くされているのか、陽が当たると柄だけでも反射してみせた。


 「お前の呼び名をどうしようか?」


 風切り音の中、お互いに叫びに近い会話をしていた。隊長の顔は遊びに行く子供の様な笑みが垣間見えた気がした。


 「【お前】で良いと思うが」


 「そうはいかん、作戦に支障が出る。とりあえず【名無し】と呼ぶからな。名前はこの件が終ったら考えるとして、そろそろ森を抜けるぞ」


 前方を見ると、森が一気に開けて、強い日差しに目を細めた数秒後、目の前には広大な湖と大空が姿を現した。


 「岸で馬を休ませたら、麓村まで休み無しだ」


 湖のほとりに馬を止めると、隊長は馬を撫でながら餌と湖の水を与え、俺は渡された皮袋に湖の水を満杯に入れた。


 湖の向こう側には、視界に収まらない程の山脈が広がって、頂上は白くなっている。森を迂回する様に道が伸びていて、先発隊の騎士団の姿は見えなくなっていた。


 今から火竜を討ちに行くと思えないぐらいに穏やかな時が流れている。


空を煽っていると、森の方から怒号と共に馬車が一台飛び出してきた。


 『うわぁぁぁ』「止めろ~~」


 制御不能になったのか、兵士達の叫びを引き連れながら、勢いよく蛇行で走る馬車を見て「何をやってるんだ」隊長は呆れた顔だった。


 俺達のいる岸近くで、馬が落ち着きを取り戻したのか、馬車はゆっくり進んで止まった。


 兵士達はぐったりしながらも荷台から降りてきて隊長に敬礼をした。


 御者席にいたのは、分隊長らしき中年の兵士とリーベルさんだった。


 「おい、俺達は先に行くが、ここから先は気を引き締めて来い。でなければ死ぬぞ」


 激しい揺れを味わった兵士達の顔を見た隊長は「・・・しっかり休んで、確実に来い。全員集まってから作戦を開始する手はずだ」


 俺は隊長の馬に乗って後ろを向くと、怒った形相で分隊長がリーベルさんから手綱を奪っているのが見えたが、後で話を聞く事にした。


 「さっきより速度を上げる、落ちるなよ」


 隊長の言葉に気を引き締めると、馬は向こう岸の山脈に向かって、湖面の上を駆け出した。

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