魔法世界 ダンドリア

風の国 ベンテス

第54話 不明者

 青々と茂る広大な森、その中にある静かに澄んだ泉のほとり、木漏れ日が差し、そよ風が撫でる。小鳥のさえずりの中、木に寄り掛かって眠っている一人の男がいた。




 森の中を、兵士の一団が二列縦隊で進んでいた。


 「止まれ!」


 ザッと縦隊が制止した。


 「よーし、今日はここで野営をする」


 少し開けた平地に着くと、先頭を進んでいた隊長が号令を掛け、兵士達が一斉に準備を始めた。


 自分の跨っていた馬から荷を降ろす者、馬車の荷台から荷物を他の兵士へ渡す者、受け取る者、人海戦術を駆使して無駄のない動きでテントが立てられていった。同時に石や丸太を使って、かまどを作って火起こしが始まる。


 馬を労いながら木に繋ぐ者、調理をする者、兵士が何人も泉へ水汲みに往復している中、一人の若い兵士が寝ている男の存在に気付いた。


 「おいっ、あれは誰だ?」


 隣の兵士の肩を叩いて、振り向かせた。


 「さぁ?商人だろ?」


 一瞥して、素っ気ない反応をした兵士は、水の入った桶を持って行ってしまった。


 「商人にしては荷物が少な過ぎだろうよ」


 やれやれといった感じで、若い兵士は寝ている男へ近づいて行くと、声を掛け、肩を揺らして起こそうとしたが反応が無い。念の為に、脈はある、呼吸もしている、外傷は無さそうだった。


 「コーラルさん、ちょっと良いですか?」


 若い兵士は、疲れている兵士の看病をしている中年男を呼びつけた。


 その中年男:コーラルは、涼しい所で休めば大丈夫だと、目の前の兵士に告げると若い兵士の方へ早歩きで向かった。


 「どうした?」


 コーラルが着くと、若い兵士は寝ている男を指さして経緯を説明した。


 「ひとまず、テントに運んだ方が良さそうだな、足の方を持ってくれ」


 コーラルが上半身、若い兵士が足を持ち上げて、コーラルのテントへゆっくりと運んだ。その最中にコーラルはすれ違う兵士に、この事を隊長に伝えてくれと指示を出していた。


 コーラルのテントの中は、簡単な治療が出来る道具が揃っている。二人は男を簡易ベッドに寝かせると、息をついた。


 「意外と重かったな」


 コーラルが笑いかけ、若い兵士もそれに応えて、男の顔を覗いた。


 「これでも起きないって事はどっか悪いんですかね?」


 「俺はここで出来る事をやって隊長の指示を待つさ、お前も自分の仕事に戻れ」


 コーラルは若い兵士を軽くあしらった。


 「それじゃ、後をお願いします」と若い兵士はテントから出て行った。


 コーラルはもう一度、脈と心音、体温、瞳孔など、確認できる事をした結果。


 「どこにも異常なし、身元の分かる物も無いっと、お前は一体誰なんだ」椅子に座って一人で呟いた。「・・・飯でも食うか」

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