終わり。

何をする、という前に、目の前で起きたことに驚愕し、声が出なかった。


マスターメビウスの体から、金色の金属の棘が突き出した。


シから腕を抜くと、そこに傷跡は無く、血も出ていない。


「おい大丈夫か?」


シに駆け寄ると、シは自分の肩を触り、固まった。


「無い。」


「無い?」


シは上着を脱ぎ、上半身裸になると、背中を俺に見せてこう言った。


「無い!棘が無いわ!!どこにも!!無いでしょう!!?」


マスターメビウスが本当に治したのだ。喰ったのか?あの病そのものを。


「あはははははははは!!」


姫はそのまま飛び跳ねて走り出した。裸のまま。


「ふー、では聞こうか、なぜ心変わりをした?」


マスターメビウスの体から突き出た金の棘はもう無くなっている。どうなっているんだコイツの体は。


「あの病気で死ぬ女を二度も見たくなかったからだ。」


「は!」


またあの笑い方だ。不愉快だ。腹が立つ。


「まぁ、いいだろう。では、さようなら。また会いたければ、マッチを擦るが良い。」


消えた。


遺跡に置いてあった机や本も消えた。


二度と会いたくない。そう思った。


「あれ?あの悪魔はどこ?」


シが走り回って一周して帰ってきた。


「消えたよ。地獄に帰ったんじゃないか。それと服を着ろ。服を。」


「ああ、そうね、寒いわ。」


シが服を着ていると、近衛府の壱が近づいてくる。


「・・・あいつは帰ったのか。」


「そうだ。どこへ行ったかは知らんがな。」


「・・・我々の、負けだ。」


壱は、踵を返し、仲間を連れて、帰っていった。




光と姫は、崖の縁に歩いて行く。


そこは高さ5Mほどの崖で、下は海。海食崖と呼ばれる地形だ。


崖の端につくと、朝焼けで、雲が赤褐色に塗りつぶされていた。もうそんな時間なのか。


なにか、10年ぐらい経ったような感覚だ。


「ねぇ、」


姫が話しかける。


光がそれに答える。


「俺はお前が好きだ。結婚しよう。」


「・・・私から言おうと思ったのに。」


「は!」


「それ、悪魔のやつでしょ。」


「そうだな、あいつには感謝してるよ。あいつのお陰でもある。」


光はポケットからマッチ箱を取り出す。


「ありがとう。」


そう言いながら、海へ投げる。


マッチ箱はくるくると風に揺られながら、チャプと水面に沈んでいった。


「いいの?」


「いいんだ。」


太陽が海から顔を出す。


その海面の下。


海の中。


沈んでいくマッチ箱。


どんどん暗くなっていく。


そのマッチ箱を手に取る人影。


マスターメビウスだ。


「まったく・・・海に捨てるとは、ひどいやつだ。」


「さて、次はどんな面白い人間に会えるかな。」


「楽しみだ。」


そう言って、マスターメビウスは、海の暗闇に消えていった。



未完成悪魔機械化事典 光と悪魔とお姫様  終わり。

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未完成悪魔機械化事典 光と悪魔とお姫様 蔦葛 @tutakazura000

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