ぐるぐる


暗い中、ぼんやりと黒い塊、熊ぐらい大きい。


それがゆっくりと近づいてくる。


蝋燭の明かりに照らされて、ようやく何か見えるようになった。


大きい塊じゃない。1・・・3・・・5人だ。


全員が仮面をつけている。兜か?顔も髪の毛も隠されている。


ゆったりとしたローブで体の輪郭も見えない。


いや・・・人なのか?


「お前たちは悪魔か」


率直に質問を投げる。


行進が止まる。


「あれは近衛府掃部寮放免よ」


姫が答える。


「近衛兵の中でも罪を犯した者で構成され、超法規的措置を行うための公式には存在しない部隊よ」


「はぇー、技術品偽造に秘密部隊、あきれるね」


三角形に隊列を組んだ、戦闘の人間が一歩前に出る。


「どうもこんばんわ。先ほどご紹介に預かった通りです。私のことはは壱とお呼びください。」


そう言った仮面には穴が一つあった。他の人間には、穴が2.3.4.5とある。わかりやすい。


「まず、礼を言わせてください。三尾氏を倒してくれてありがとうございます。」


「あぁ?」


「これで彼も、少しは大人しくなるでしょう。」


「敵に感謝されるとは意外だな。」


「では本題です。姫を返して頂きたい。」


「断ればスナイパーに撃たれ、返してもその瞬間撃たれるんだろう?」


「その通りです。王族誘拐は裁判なしの死刑です。わかりやすいでしょう。」


「今撃たないのは、俺の近くに姫が居るからか。」


「その通りです。」


「逃げても逃がしても殺されるのなら、自棄になった俺が姫を殺す、とは考えないのか?」


姫を抱き寄せ、人質にとる。



「構いませんよ」


「何?」


「姫が誘拐され殺される、その悲劇はニュースとなって駆け巡り、国民は心を一つにし、世界から同情を集め、盛大な葬式で各国の国賓を呼び、外交の場となり、我が国の国力を高める。」


「・・・」


「どうせ、病で死ぬ命ですからね。」



頭に血が昇るのを実感する。俺は怒りに支配されている。おそらく、こいつはわざとこれを言っている。


人間、怒りに支配されると、判断能力が鈍る。冷静にならなければ。


「痛い。」


姫が囁く。


無意識に姫を掴む手に力が入っていた。そんなことにも気づかなかった。


これだから感情的になるのは危険なんだ。


「さて、問答もここまでです。それでは、死んで頂きましょう。」


ローブの中から、剣を抜く壱。それと同時に、残りの兵も剣を抜く。


「・・・」


「・・・」


「どこを見ているのですか?首を差し出すということですか?」


壱は背を向けた二人に話しかけるが返事が無い。


壱は何かの作戦か?と思ったが、そうではなかった。


パキパキと音がする。二人が見ているのはそれだ。


何の音だ?今まで聞いたことのない音。近いのは、つららが折れるような、


なぜそんな音がする?二人が壁になって見えない。少し、二歩移動し、何を見ているか確認する。


今、この状況で剣を持った相手より優先するほどのコトとはなんだ?私に危険が及ぶことか?


その答えは、あまりにも非現実的な光景だった。


最初に頭を撃ちぬいた女の死体。それがガラスのような断面だったことにも驚いたが、


その砕けた頭・・・ガラス状のモノが、磁石に引き寄せられるように、破片自らがくっつき、


徐々に再生している。もう目のあたりまで。


これは・・・なんだ?なんの現象なんだ?


二人も驚いて声も出ず、完全に硬直している。つまりは二人も予想していないことだ。


・・・じゃあ、なんなんだこれは?


何が起きている?


ついに女が立ち上がる。それも、重力を無視して、一人でに。


「撃て」


仮面の中の通信機で、待機しているスナイパー「六」に指示を送る。


ダァァァァァン・・・


銃声が聞こえる。


しかし、どこにも着弾した痕跡が見えない。


「どうした?どこに撃った?」


六に確認をするが、返事が無い。



ジワリと悪寒が襲う。もしかして、今、私は、とんでもない事に巻き込まれているのでは・・・?


女は完全に復元し、髪をかき上げる。


「何千年ぶりかだな、頭を吹っ飛ばされたのは。いや、何十年ぶりか?すまない。何億年も生きてると、


時間の感覚がよくわからなくてな。」



コイツを見たとき、誘拐犯が最初に行った言葉が頭に繰り返された。「お前たちは悪魔か」


あの男は私たちを悪魔だと勘違いした。それはつまり、本物の悪魔と会ったことがあるという事、


それが意味することは、悪魔という存在が現実だと肯定することで・・・


全身から冷たい汗が噴き出す。


どんなに常識的な思考が悪魔などいないと結論を出そうとしても、


目の前の現実という圧倒的な証拠がそれを許さない。


「初めまして。私の名はマスターメビウス。悪魔だ。よろしく。」


悪魔は丁寧に深々と頭を下げ挨拶をする。


そこにいる人間全員は固まったまま動けなかったが、脳内は、激しく回転していた。


悪魔はいる。悪魔なんていない。


その二つがぐるぐると。洗濯機の渦のように。




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