壊れた悪魔

10分ほど歩くと、マスターメビウスのいる場所が見えてきた。


すごいことになっている。


まるで・・・まるで、なんだ?例えようがない。


金の机の周りに、山積みにされた鞄みたな分厚い本、緑色に光る蝋燭、紫色の液体が泡立つ鍋、謎の器具の数々。


何もない草原に突然に研究室がそのまま置かれたような光景。


マスターメビウスは、忙しそうに何かを書いている。


「あれが、悪魔…」


驚くのも無理はない。俺もいまだに現実感が無いのだ。


姫がすたすたとマスターメビウスの元に歩いていく。それに俺もついていく。


「おお、やっと来たか。」


こちらに気づいたマスターメビウスが手を止める。


椅子から立ち上がり、姫の目を覗き込む。


「いいだろう。正しい。」


値踏みが済んだら、マスターメビウスは一枚の紙を机の上から引っ張り出す。


「ではサインしてもらおう。契約書だ。」


「契約書?」


「そう、契約だ。この世のすべての基本。すべての根底。すべての束縛。」


「・・・」


「手を出せ」


「?」


マスターメビウスは俺の指先をペンで突き刺す。


「いてッ!何をする!」


「血は何よりも濃い。インクよりもな。」


これで名前を書けというのか。


ペンを持つ。


名前を書こうとするが、手が止まる。


・・・いいのか?本当に。いや、こうするしか・・・


ここに来て、俺は・・・認める。俺はビビっている。怖い。


悪魔の契約、生贄。今から俺は人を一人生き返らせる代わりに、一人殺すんだ。


そうするためにここまで来た。だが、手が震えている。


これを、乗り越えなければ、俺は・・・


姫とマスターメビウスは、黙って俺を見ている。


姫は優しく微笑んでいる。


マスターメビウスは俺をまるで動物園の檻の中の動物を見るように、にやにやと眺めている。


深呼吸をし、契約書に自らの名を書こうとした瞬間。


カシャン


うわっ


突然何かの破片が当たった。


なんだ?宝石?ガラス?透明の紫の水晶?


いや、顔だ。


マスターメビウスの顔が砕け散っていた。


それも、生物じゃなく、まるでガラスの塊を砕いたような、


悪魔は生き物じゃないのはわかっていたが、体が宝石で出来ているのか?


そう思ってるうちに顔のないマスターメビウスは倒れて砕け散った。


バラバラになった体は、すべてが宝石のようにキラキラと輝いていた。


何が・・・何が起こっている?姫も驚いて声も出ない。


あまりの出来事に、二人とも硬直している。


そうしているうちに、何かが近づいてくるのを感じた。


目を向けると、何かが居た。


そこにいつから居たのかはわからないが、何かが居た。




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