許せない事
壱が聞く。
「スナイパーの返答が無い。何をした。」
マスターメビウスが答える。子供にこたえるように、ゆっくりと、やさしく。
「銃弾をそのまま返してやった。軌道を逆にたどるように、運が良ければ死んでないだろう。」
仮面の穴が四つある“四”がマスターメビウスにナイフを投げる。
ナイフはマスターメビウスに触れた瞬間、その勢いのままこちらに向かって飛んでくる。
壱が剣でそれを弾いて四を守る。
「こんな風にな」
何もない空中に“座って”優雅に佇むマスターメビウス。
歴戦のつわもの部隊も、動揺が広がる。
光と姫は、遺跡の柱の後ろに隠れている。
我々が作戦を遂行するためには、この悪魔を倒さなければならない。
頭を吹っ飛ばして死なない存在をどう殺す?
一つ深呼吸をし、心を落ち着ける。
我々は使い捨ての存在だ。罪を犯した。死刑になる罪を、任務に成功するたび減らしていく。
それでも自由になるには莫大な利益を国家に与える必要がある。
それがまさか、悪魔と対自するとは、笑えるな。
剣を構え、号令を出す。
「殺せ」
仮面の二が動く。武器は組み立て式の槍。筒の中に紐が通っており、それを引くことで槍に成型する。
悪魔は何一つ動く気配が無い。
「悪魔は死ぬのか?」
二がマスターメビウスに聞く。
「人間に殺された悪魔は居る。」
マスターメビウスは率直に答える。
「お前は死ぬのか?」
「さぁ?死んだことが無いからな。」
仮面の二は、悪魔の答えが終わる前に槍でマスターメビウスの胸を突く。
貫通した胸から血は出ず、同じようにガラスの破片のようなものが飛散するのみだ。
「心臓を突き刺す。それで死ぬ悪魔も居るな。」
槍が突き刺さったまま、余裕綽々で悪魔が答える。
仮面の二が槍を抜くと同時に、壱が剣でマスターメビウスの首を横薙ぎで切る。
悪魔の首は回転しながら宙を舞い、落ちてきた首を、頭のないマスターメビウスの体が片手で受け止める。
首は上下逆さまで手の上に乗り。マスターメビウスはそのままで話しかける。
「首を刎ねる。東洋ではそれが有効な悪魔も居るな。」
壱と二がマスターメビウスから下がり距離を取る。
残りの四と五も下がる。かなり離れる。
一人残った仮面の三がローブの中から長い銃身の武器を取り出す。
マスターメビウスの後ろにある柱の影に隠れていた光と姫が危険を感じ走り出す。
バオッ
月明りの海岸沿いの草原が、突然真っ白に輝いた。
火だ。
火炎放射器だ。
燃料を噴射し、対象を焼きつくす非人道的兵器。火は周りの酸素を焼き尽くし生物の呼吸を不可能にし、
熱と酸欠で確実に殺すことが出来る。
火。単純で原始的で最も効果的な兵器。
悪魔も火に包まれ、姿かたちが見えなくなる。
が、藻掻くことも叫ぶことも無い。
10秒か1分かわからないが、少しの時間、燃え続けた後、火が一瞬にして消えた。
「炎で焼く。確かに有効な方法だ。だが、魔界で魔王を名乗るこの私に、
マスターの名を持つ、マスターメビウスを殺すには、ずいぶん火力不足だな。」
仮面の三は、火炎放射器を握る手が震えていた。
怖い。もう理屈じゃない。オレは、今、怖い。
「ふむ。少し驚かせすぎたかな?」
空中に浮いていたマスターメビウスは地面に降り、すたすたと歩みだす。
地面に落ちていたナイフを拾い、自分の胸に当て、自ら傷をつけた。ほんの少し、
猫がひっかくようなかすり傷を、
「なっ・・・」
驚く一同。
傷からは赤い血が流れていた。
「私の体を人間と同じにした。人間相手に久しぶりに遊ぶんだ。このくらいのサービスは必要だろう。」
今夜は驚きの連続だった。恐怖の連続だった。しかし、これは…
侮辱された。と感じた。
我々は、今、舐められたのだ。
誇れる仕事でもないし、誇ることもできない仕事だ。非合法の掃除屋。
だが、我々は生きるために必要な仕事だ。それを侮辱されたのだ。
許せない、と兵達は思った。この悪魔だけは許しては置けない。
絶対に殺す。そう決意し、長い戦いが始まった。
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