第55話 告げられた真実

 「あなたのおじいちゃん──彦根ギンガは生きている」


 配信終了後。

 落ち着いたところで、ヤマタノオロチの“ヤマダさん”が伝えてくる。

 驚いた俺は思わず聞き返した。


「お、おじいちゃんが?」

「そうよ。あなたは何も聞かされてないでしょうけど」

「……うん」


 おじいちゃんが消えたのは、四年前。

 ちょうど前回のヤマダさんの目覚めから、数日後だ。


 最初は俺も混乱してしまった。

 でも、エリカ姉さん達の支えもあって、なんとか持ち直した。

 それからは姉さんが主導となり、家主になるべく探索者申請などをしたんだ。


「そっか……おじいちゃんが」

「あ、ごめんなさい。生きているはず・・よ」

「え?」


 ヤマダさんはコホンと一息つくと、若干気まずそうに続けた。


「正しくは“少なくとも四年前までは生きていた”、かしらね。まあ、あの人が簡単に死ぬとは思えないけど」

「じゃあ、今はどこに……?」

「正確には分からない。だけど、目的・・は知ってる」


 一際ひときわ真剣な眼差しで、ヤマダさんは口にする。


「ギンガは、とあるダンジョンへ行ったのよ」

「……!」

「何やらとくされた場所だそうね。ギンガは秘密裏に依頼を受けておもむき、きっと今も探索を続けている」

「お、おじいちゃんが……」


 四年前の時点では、おじいちゃんは俺なんかよりもっと強かった。

 一緒に遊んでいた時も、軽くあしらわれていたんだ。

 そんなおじいちゃんがわざわざ行くなんて、一体どんなダンジョンなんだろう。


 少し考えていると、ヤマダさんはふっと笑った。


「私が知るのはここまでよ。続きは、そこの人にでも聞いたら?」

「え? あ」


 振り返ると、エリカ姉さんが歩いて来ていた。

 ヤマダさんは目を細めながらたずねる。

 

「どうせあなたが一番知っているでしょう?」

「ふふっ、どうかしらね」


 姉さんもふっと笑みを返した。

 だけど、ヤマダさんの言う通りだと思う。


 おじいちゃんの代には、おじいちゃんをしたう他のペット達がいた。

 めろん達はまだ幼かったし。

 でも、姉さんだけは深く関わっていた。


 姉さんが家を主導するのも、その時の名残だ。

 俺も頼りにしているし。


「姉さん、知っている事があるなら──」

「ふふっ。落ち着いてホシ君」

「……!」


 俺が聞こうとすると、姉さんの髪がふわりと浮いた。

 すると、隠し持っていた物が見える。

 

「まずはご飯にしないかしら」

「そ、それって……!」


 姉さんの後方から浮き上がったのは、キャンプセットだ。

 鍋なども持っている。


「もう遅いし、今日はここでキャンプをしましょ」

「うんっ!」

「キュイっ!」「ワフっ!」「ボオっ!」


 ペット達も大賛成みたいだ。

 ならばと、俺は後方にも呼びかける。 


「ヤマダさんもやるでしょ。どうせもうすぐ眠るんだし」

「シュフフ……私がそんな子供じみたことを──」

「じゃあ誘ってあげない」

「うそうそ、やります! やらせてください! キャンプ大好き!」


 こうして、俺たちはキャンプの準備を始めた。






「はー、極楽ごくらく極楽ごくらくぅ」


 辺りはすっかり真っ暗。

 涼しい夜風を感じながら、俺はリクライニングに寝転がる。


「満腹だし、気持ち良かったし、何も言う事ないや」


 あれから、姉さんの夕食をお腹いっぱいに食べた。

 火起こし係(いちご)もいたし、食材も姉さんが持ってきてくれたんだ。

 周りもエモい景色も相まって、最高のキャンプ飯になった。


「って、どうしたの流転君。顔を赤くして」

「……! いや、なんでも……」


 夕食後は、魔素水の湖で湯浴み。

 姉さんがタオル一枚で勝手に入ってきたけど、途中で追い出した。

 さすがに俺も一緒に入る年齢じゃないし。


 って、まさか。


「もしかして、魔素水の刺激が強かった!?」

「そ、そういうわけじゃなく……お姉さんの体が……」

「ごめん! 流転君なら大丈夫だと思って!」

「いや、それは大丈夫です! むしろ謝りたいのはこちらです……見てしまって・・・・・・


 最後まで、流転君はごにょごにょと話していた。

 とにかく大丈夫なら良かった。


 ちなみに、ヤマダさんは奥で酔っぱらっている。


「あははははぁ! 今回は飲~んみ明かすんわよぉん!」

「「「シャーーー!」」」


 べろんべろんでしゃべれていない。

 姉さんが持って来た追加の酒を、一気飲みしてたからな。

 周りの首と一緒に観覧車みたく回ってる。


「キュイィ」「ワフゥ」「ボオォ」


 ペット達も、回る首の上でのんびりしているしな。

 すっかりヤマタノオロチさんを気に入ったみたいだ。

 連れて来て大正解だったな。


 そんなペット達を眺めていると、湖の方から声が聞こえてきた。


「ホシくーん! お姉さんも上がったよ~!」

「お」

「ぶっ……!」


 姉さんは激しく揺れる浴衣姿だ。

 すると、隣で流転君が急に鼻を抑えた。

 

「流転君、大丈夫!? って大変、鼻血だ!」

「だ、大丈夫です。ティッシュあるんで」


 やっぱり魔素水の刺激が強かったのかも。

 俺も反省する中、寄ってきた姉さんはふわりと髪を浮かせた。


「あら。まさかと思うけど興奮しちゃったのかしら」

「……!?」


 姉さんはふっと笑みを浮かべる。

 目は笑ってない。


「今すぐ去りなさい♡」

「……ッ!! す、すみませんでしたぁ!」

「あー」


 なぜか怒られているみたいだった。

 そんなこんながあり、流転君は退場。

 すると、姉さんと二人きりになる。


「……綺麗だね、ホシ君」

「うん」


 見上げる夜空には、幻想的な景色があった。

 星かすら分からないけど、光る点々が浮かんでいる。

 改めて見ると、夜の地下三階は絶景だった。


「「……」」


 でも、姉さんもいつもより口数が少ない。

 きっと俺と同じで、切り出し方に迷っているんだ。

 だから最後は、俺から口を開いた。


「前に見た時は、おじいちゃんも一緒だったね」

「……ええ」


 そうして、ようやく姉さんは切り出した。


「話すわ。彦根ギンガさんのこと」

「!」

「まずは、少し昔話でもしようかしら」

「……うん」


 頭に浮かぶのは、家にいた頃のおじいちゃんの姿だ──。

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