第54話 彦根家の新世代

 「ではその力、測らせてもらうわ!」


 ヤマダさんは、ついに本気を見せる。

 周りの山々から、残り七本の頭が姿を現したんだ。


「「「シュオオオオオ!!」」」


 中央のヤマダさんとは違い、他はそのまんま巨大な蛇。

 これで八つの顔がそろった。

 改めて見ると全貌ぜんぼうはとてつもなく大きい。


《出たあああああ!》

《体も合わせたら超巨大だな》

《これぞヤマタノオロチ》

《(;゚д゚)ゴクリ》

《迫力がすげえ……》

威厳いげん失いかけてたけど》

《やっぱり地下三階の住人か》


 そうして、ヤマダさんは意気いき揚々ようようと号令した。


「さあ、やっておしまい!」

「「「シュオオオオオ!」」」

「……!」


 同時に、他の七匹が動き始める。

 きっとものすごい攻撃がくるはず。

 俺たちも防御の姿勢を取るも……こ、こない。


「あれ?」


 何やら他の七匹が言い合いを始めた。

 

「シュオ!」

「シュオ?」

「シュオッ!」

 

 お前がいけよ、嫌だよ、じゃあお前。

 七匹はお互いをにらみ合い、誰かを先に行かせようとしている。

 それに見兼みかねたヤマダさんが声を上げた。


「あーもう何やってんのよ! じゃあいけ、端っこ!」

「シュオ!?」(僕ですか!?)

「普段は特に目立ってないでしょ。お前が先行け!」

「シュ、シュオオ!」(う、うおお!)


 指示をされて端っこの奴が向かってきた。

 でも、首がまっすぐ突っ込んできただけだ。


「ギャウ」

「シャィ~ンッ!」


 めろんがはたくと、端っこの奴の頭を簡単に弾き返す。

 テニスのラリーのように返され、その首は山のふもとに激突した。

 すると、ヤマダさんが苦い顔を浮かべる。


「ちぃっ、だから四ぐんなのよ!」

「四軍?」

「ほら、クラスの集合写真で映る位置があるでしょ。あれと一緒で、私たちも真ん中から徐々に一軍、二軍って決まってるのよ」

「そんな法則無いと思うけどなあ……」


 どうやらヤマダさんを含む、真ん中三人が一軍。

 周りにいくにつれて、二軍、三軍となるらしい。

 今の端っこの奴は、唯一の四軍だったわけだ。


《なんだよそのシステムwww》

《ヤマタノオロチにヒエラルキーあって草》

《ヤマダさんはクラスの中心か》

《一軍ギャル的な立ち位置だったのねw》

《じゃあ今の端っこの奴って……》

《あれ、なんだか涙が……》

《端っこ君を思うと涙が止まらない》


 なんてひどいことを言うんだ。

 しかも、ヤマダさんはさらに続けた。


「シュフフっ、油断するのは早いわよ。そいつは八人の中でも最弱。あと陰キャ」


《ひでえww》

辛辣しんらつなヤマダさん》

《仮にも自分の体の一部だろ》

《ヒエラルキー顕著けんちょで草》

《これがヤマタノオロチの闇か》


「じゃあ次、いけ三軍!」

「「シュ、シュオオ!」」

「みんな同時にくればいいのに……」 


 俺はぼやきつつも、再び構えを取る。

 三軍の名の通り、一段階強いみたいだ。


「「シュオオ!」」

「……!」


 二匹の首が猛毒の霧を放ってくる。

 でも、その軌道は途中でグニャリと曲がった。


「ぐ、ぐううううぅぅぅ!」

「流転君!」


 流転君が魔素を操作したみたいだ。

 重たそうに腕を回しながら声を上げる。

 

「み、皆さんで行ってください! 僕にはこれぐらいしか……!」

「分かった! みんな!」

「ギャオ!」「ガウ!」「ボオ!」


 さすがは流転君だ。

 少し・・本気を出せばやっぱり強い。

 その間に、俺たちはヤマダさんに向かって跳び立つ。

 

「うおおお!」

「くっ、迎え撃て二軍!」

「「シュオオオ!」」


 対抗するように、今度は二軍の二匹が出てくる。

 だけど──さすがだ。


「ギャウウ!」

「ガルルル!」

「「シュオッ!?」」


 二軍の二匹にはそれぞれ、めろんとわたあめが対処した。

 両サイドからの攻撃を防いだ形だ。

 俺の勢いは殺されない。


 すると、炎の翼を左右に広げるいちごが、ぴくぴくっと合図をした。


「ボオッ!」

「お、いいね!」


 やりたいことを察知し、いちごの背中に飛び乗る。

 そのまま、いちごは天高く舞い上がった。


「ボオオオオッ!」

「な、なんなの……!?」


 上空からはまぶしい陽の光が注いでいる。

 それを背にした俺たちを目視しにくそうに、ヤマダさんは声を上げた。


「いくぞーいちご! ほっ!」

「ボオッ!」


 上空より、俺はいちごから飛び降りる。

 同時に、いちごは【炎の吐息ファイアブレス】を放った。


「あはははっ!」

「ボオオオーーーッ!」


 【炎の吐息ファイアブレス】の勢いに後押しされ、クロスチョップを構えた俺が天から突っ込む形だ。


《いちごとのコンビネーション技!!》

《燃えるホシ君が回転しながら降ってきた!?》

《炎で回転してる!》

《かっけえええ!》

《いや、よく考えたらおかしいからな?w》

《ホシ君は熱が効かないからなwww》

《普通なら全身焦げてるわ笑》

《めちゃくちゃな技で草》


 対して、ヤマダさんは防御を固めてくる。


「い、一軍防御ぉ!」

「「シャーーー!」」(ギャーーー!)


 一軍の二匹を腕のように扱い、俺と勢いよく激突した。

 俺といちごのコンビネーション技を、二匹は顔面で受け止めている。


「「シャババババ!」」(あばばばば!)


《一軍くーん!w》

《ヤマダさんの扱いがひどいwww》

《総じて周りが酷使されてて草》

《一軍になってもこの扱いかよ泣》

《こんなのひどすぎるよ!》

《労基に訴えていいだろこれ》

《もうやめてあげて!》


 だけど、いちごが後ろから押してくれる俺の勢いは止められない。


「うおおおおっ!」

「「シャアアアッ!」」


 すぐに均衡きんこうくずれ、前方がひらかれる。

 こちらの勢いに、二匹の壁が左右へはじかれた形だ。

 前方に見えるのは、ヤマダさんのみ。


「うりゃーっ!」

「こ、このぉ!」


 ヤマダさんの最後の抵抗だ。

 俺を上空で撃墜げきついするように、山を丸ごとぶん投げてきた。

 でも、それじゃ俺たちは止まらない。


 ──ドゴオオオオッ!


とらえましたよ!」

「げげえっ!」


 俺はいちごの炎で、螺旋らせん状に回転している。

 その高めた貫通力で、山ごとぶち抜いた。

 今度こそ残るものはない。


 俺はすさまじい勢いのまま、ヤマダさんの腹辺りに激突した。


「ていやーっ!」

「ごはあっ……!」


 ずっと構えていたクロスチョップは、ヤマダさんの腹にクリーンヒット。

 たしかな感触を確かめ、俺は後方に着地した。

 ヤマダさんは、苦しそうな顔で強気な言葉を絞り出す。


「な、中々・・やるじゃない? ……ぐふっ」 

「いや、あの」


 でも、周りを眺めたら一目いちもくりょうぜんだ。


「周りの顔、れてますけど……」

「「「シュオッ……」」」(もう無理っす……)


《なにが中々だよw》

《周りボッコボコで草》

《ボコボコで言うセリフではない笑》

《最後まで強気やなあwww》

《プライドもあるんだろうけど……》

《もうやめたげてえよお!》

《ブラックもびっくりの酷使具合》

 

 どう戦況を見ても、こちらの勝ちだと言えた。

 視聴者の多くも感じたみたい。

 ヤマダさんへの批判は半分ノリだろうけどね。


 これには、ヤマダさんも認めざるを得なかった。


「そ、そうか……。これが彦根家の“新世代”」


 ヤマダさんが前回目覚めたのは、四年前。

 そこから比べたら、俺たちも強くなったと思う。

 おじいちゃんの世代とはペットも違う・・・・・・わけだし。


 でも、そんなことより聞きたいことがあった。


「ヤマダさん、そろそろ良いですかね?」

「なんのことだ?」

「ペット達が“遊ばせろ”ってうるさくて」

「ま、まさか……!」


 すると、隣にいたペット達は一斉に飛び出した。

 魔物の世界は弱肉強食。

 敗者は勝者に従うしかない。


「キュイ~!」「ワッフ~!」「ボオッ~!」

「「「シュオオッ!?」」」


 その絶対法則にのっとり、三匹は遊び始める。

 ヤマダさん以外の長い七本の首で。

 勝負がついたので、すでに巨大化も解いている。


「キュイッ!」「クゥン!」「ボオッ!」

「「「シュオオ……」」」


 ヤマタノオロチさん達は、三匹の指示通りに動いている。

 滑り台やジェットコースター、観覧車なんかに見立てられて。

 まるで孫に馬乗りされる祖父みたいな光景だ。


「まさに、ヤマタノ遊園地ですね」

「これが彦根家の新世代……」


 完全に威厳いげんを失ったヤマダさんは、天をあおぎながら先程の言葉を繰り返した。


《やっぱこいつら強すぎるww》

《ヤマタノオロチを圧倒すんのかよw》

《ペットも容赦ないんだよなあ笑》

《ペット「遊ばせろ」ヤマ「はい」》

《これが弱肉強食の世界か……》

《新世代こっわwww》

《光景は平和なんだけどなあ》

《やっぱりホシ君ちだった》

《残酷な描写にはならない》

《尊厳失われてるのである意味残酷w》


「じゃあ俺も遊ぼっと! ほら流転君も!」

「え、ええ!?」

「フッ、仕方ないわねぇ」


 すると、何かを諦めたのか、ヤマダさんも次第に遊んでくれるように。

 平和な光景に、配信もほのぼのしたものになっていった。

 

 そうして、ひとしきりヤマタノ遊園地を堪能たんのうした頃。


「ホシよ、今回の目覚めは楽しかったわぁ」

「お、本当ですか!」

「ええ。新たな風も感じられたし」


 配信終了後、ヤマダさんは言葉を伝えてくる。


「私は明日にでも眠る。また四年はしょうの心配もないでしょう」


 瘴気は目覚めの時期に発生する。

 一度落ち着かせれば、もう四年は大丈夫だ。

 でも、瘴気にも意味があったみたい。


「私が瘴気を発生させるのは、役割があるからよ」

「え?」

「私は前回の目覚めで伝言を預かった。もしあなたが次の瘴気を乗り越え、私に力を示した時は、ある事・・・を伝えるようにね」

「そ、それって……?」


 俺はどこか緊張しながら、その言葉を待つ。

 聞けたのは、ずっと知りたかった事だ。


「あなたのおじいちゃん──彦根ギンガは生きている」

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