第11話 祖父

私の父方の祖父は、父が幼少期に蒸発した。その後、海辺の町で寿司職人に弟子入りし、そこの親方に認められて暖簾分けを受け、自分で店をかまえた。親方の娘さんと再婚し、茉莉という名の子どももできた。私の父は、祖父の死ぬ間際に自分の腹違いの妹、茉莉さんから連絡を受けて、はじめてこの事実を知った。小学六年生だった私は、ある夜、父が茉莉さんから電話を受けた時の表情を朧気ながら記憶している。祖父が亡くなったあとに、父親に連れられて、祖父の寿司屋に行ったことも多少覚えている。しっかりした店構えの寿司屋で、なんでも食べていいと言われた私は、沢山食べたはずだ。何を食べたか忘れたが、美味しかったことだけ覚えている。父の内心など気にもとめず、自分の親戚すじに寿司屋がいたということが嬉しかったのだ。きっぷの良さや、「いなせ」とか、男気溢れるイメージが寿司屋にはあった。まさか自分も寿司屋になろうとは思っていなかったのだが、時を隔てて私はイギリスの片田舎で寿司屋を経営している。


きっかけはしっかりあるのだが、私は妻子に何も言わずに祖父同様、家を出た。職場に電話一本かけて仕事を辞め、きのみきのまま空港からフランスへ出た。

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青い月が呼ぶ @kaz26aok

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