3
①と記された窓口に行くとその奥から、男性が訝しげな顔をで織を見てきた。
「お嬢さん。それ、開けてみなさい」
それ、と言って織が持っている一通の手紙を指差した。
「だめですよ、
「良いから開けなさい」
男性は、面倒臭そうに顔を顰めてからもう一度繰り返した。
申し訳ないな、と思いながら封を開ける。
「開けました」
男性は、読んでみなさいと手紙を指す。
二つ折りの紙を開く。織は、実は手紙の内容に興味がないわけではなかった。幼馴染が想い人にどんな言葉を綴ったのか、織は気になっていた。申し訳なく思う気持ちは薄れて、いたずらっ子のような表情を浮かべる。
読み終わるころには先ほどの表情は遥か彼方へ消え去って、凛としたような間の抜けたような、苦いような甘いような、例えようのない顔をした織がそこにいた。
「全然、大袈裟なんかじゃなかったじゃん」
織はそれだけ呟くと、また二つ折りにして丁寧に丁寧に封筒へ戻した。
「どうでしたか。もう届ける必要は——生まれ変わる必要は、ないのではありませんか」
男性が少し微笑んだように見えた。
「——いえ、最後まで代行します」
最初から答えは決まっているのだ。舜からのおねがい、なのだから。
「そうですか。生まれ変われば、今の記憶は無くなりますがよろしいですか?」
「はい」
応える声に迷いはなかった。
「——では、差出人のお名前はこちらで消させていただきます」
なぜですかと問えば、別の世界に持ち込むといろいろとあれなので、と返ってきた。
男性が掴んだ黒いペンが、『伊藤舜』の三文字を黒いインクで塗りつぶす。
「それでは、あそこに見える扉から外へ出てください。ポストへの投函完了が確認され次第、次の世界を始めます」
織が扉をくぐると、ポストが延々と並んでいた。一つごとに0から数字が割り振られている。0と1は深い緑色、2から先は赤色だ。もっとずっと先はクリーム色に見えた気がしたが、あまりにも長く続いているため定かではない。とりあえず0と書かれたところへ投函しようとしたが、違うでしょうと言わんばかりに差し入れ口を閉じている。その口の横を見ると小さな字で、「お届けする方のご年齢のポストへお入れください」と書いてある。
織はほんの少しだけ悩んで、15と書かれたポストに手紙を入れた。
「できた——」
織はポストに体を預けて、青く広がる空を見上る。
そして、もう一度意識を失うまで、舜の書いた文面を何度も何度も反芻していた。
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