26/フレウンの守護

 教会に戻ると、グレイさんが礼拝堂の入り口で待っていた。

 帰ってきたわたしたちに気がつくと、グレイさんはにこりと微笑む。


「お帰りなさい。お待ちしておりました」


 そうして、礼拝堂の扉を開けて中へと入る。


「出かける前にメルリヌスさんが仰った通り、懺悔室の椅子の下に地下へと続く穴が見つかりました」

「ああ、そうかい。じゃあ、早速地下へと向かおう」


 グレイさんの後に続いて、懺悔室へと向かう。

 今回は封印を解くだけではなく、外へと繋がる通路も作らなければならないという話だ。うまくできる自信はないが、やれるだけのことはやらなければ。

 懺悔室の床には、ムメイの街の教会の時と同じように穴が空いていた。メルリヌスさんはそれを確認すると、すぐに穴へと飛び込む。

 その後を追って、ゆっくりと梯子を降りて下へと向かう。梯子を降り切ると、メルリヌスさんは前回同様わたしが到着するのを待っていてくれた。

 メルリヌスさんは手持ちランプを片手に、ずんずんと奥へ進んでいく。小部屋に到着すると、松明に火をつけて封印のための支度を整えてくれた。


「それじゃあ、よろしく頼むよ」


 頷いて、魔法陣の中央に立つ。

 前回と同じように、魔力器官を接続して魔力を流し込む。魔法陣の役目もその構造も、ムメイの街のものと変わらない。


「——確定セット。接続者名、モルガーナ・トン・蜃気楼アステリオン。我が声に応え、扉を開けよ。フレウンの守護よ。その役目を手放し、深く眠る星の心臓を現せ————!」


 閉じ込められていた魔力を解放する。魔法陣に貯められていた魔力は、やっぱりわたしの魔力と色が似ていた。


「これで二つ目。残りはあと一つだ」


 コツコツと足音を鳴らしながら、メルリヌスさんが魔法陣の中央へとやって来た。


「それじゃあ、通路を作ってもらおう」


 メルリヌスさんはぱちりと手を合わせながら簡単に言う。


「具体的には、どうしたらいいんでしょうか」

「そうだね。空に穴を空けるイメージ、かな。ああ、行き先は星の幽閉塔でよろしく」


 やってみて、と促されて杖を持ち直す。

 イメージは空に穴。けれど穴を空けるだけでは通路にはならない。目指すべき場所に向けて、きちんと道を作らなければ。

 魔法陣の中央に再び杖を突き立てる。


「魔力器官、接続。回路起動」


 魔法陣に触れていて、なんとなく感じ取れたことがある。

 この魔法陣はもしかしたら、星の心臓を守るためだけに存在するわけではないのではないだろうか。確かに魔力を込めることでその役割を果たすことはできる。だがそれが主な仕事かと問われると、どうにも何かが引っかかる。

 魔法陣自体がそもそも一つの大きな扉であり、どこか、何かと繋げることが本来の役割なのではないだろうか。例えば、今しようとしていることのような。

 ムメイの街でメルリヌスさんが言っていたことを思い出す。ここは封印の場。脆くて壊れやすい世界の急所。外と繋がりやすい場所。

 もしかしたら、世界のもっとも危うい部分を守る役割もあるのかもしれない。魔法陣の役目を終わらせれば、世界の急所は丸裸になる。そしてそこに穴を空ければ、外との繋がりを作ることができる。

 ……本来なら、世界の外側と繋げることがこの魔法陣の役割なのではないか——?

 けれど今はそれを考える時ではない。ともかく、外の世界へと続く道を作らなければ。


「——確定セット。接続者名、モルガーナ・トン・蜃気楼アステリオン。空に続くは星の道。終着は星の幽閉塔。開け、そらへと続く星の入り口よ————!」


 魔法陣に魔力を廻す。

 魔力が魔法陣全体へと行き渡ると、魔法陣は新たな役割を果たすために働き始める。やっぱり、本来の役目はこちらなのではないだろうか。なんとなく、その方がしっくりくる。

 外との繋がりは一時的に許可された。魔法陣からは天井、空に向かって真っ直ぐに光の柱が立ち上がっていた。


「うん、文句なし。上出来じゃないか」


 ぽん、とメルリヌスさんがわたしの頭に手を置いた。


「よしよし。優秀優秀」


 そのまま、手をガシガシとぎこちなく動かす。もしかして、頭を撫でて褒めているつもりなのだろうか。


「あ、ありがとうございます」


 嬉しいような恥ずかしいような、微妙な気分だ。けれど頭から伝わる感覚はなんだか心地よい。

 メルリヌスさんはわたしの頭から手を離すと、光の柱に手を触れた。


「あとはこの内部に入れば、自然と星の幽閉塔にたどり着く。さ、行こう」


 メルリヌスさんは一足先に光の柱の内部へと入って行ってしまった。

 後を追いかけようとしたところで、ぴょんとテイルが肩から降りてしまった。


「テイル、来ないの?」

「ああ。外の世界に行くのは、この身体には負担が大きい。だから、今回はここで待っているよ」


 使い魔とニンゲンでは、何かが違うのだろう。それによる負担の違い、というものもあるのかもしれない。


「そっか、分かった。すぐに戻ってくるから、待ってて」


 ああ、とテイルが頷いたのを確認して、わたしも光の柱へと入る。

 眩しさに目を瞑って、そうして再び目を開ける。それだけで、全く異なる世界へとたどり着いていた。

 砂。砂。砂。見えるのはどんよりとした曇り空と、どこまでも続く砂の大地。暖かくも寒くもないけれど、なんだか寂しげな空気だ。


「星の内側、烏兎の領域へようこそ。さて、幽閉塔はあそこだ」


 いつの間にか隣に立っていたメルリヌスさんが指を指す。

 その方向には、空へと伸びる白い塔が建っているのが見えた。

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