31.軽蔑
*
松ぼっくりちゃんは、深く溜息を吐いた。
「
立破さんの肩に力が張った。今、松ぼっくりちゃんの
「わたくしは確かに物を書きます。しかしそのことに抵抗がない訳でもないのです。我等が王國だけでなしに、本邦は世界最大規模の書籍消費国。活字を最も愛する国であり、最も樹木を殺す国でもある。だからわたくしは、文筆業に
「――君も物語を書くじゃないか」
「だから、わたくしは自身のことも
立破さんは絶句した。
「あなたはそこのところをわかっていない。わたくしは自身に対する評価ですら決めあぐねている。書く人間でありたいと願うわたくしと、そんな願いを持つわたくしを憎むわたくし……そんなわたくしの心も知らぬままで、よくハナブサのふりなどしましたね」
「――え」
松ぼっくりちゃんの鉛色した眼が、じっと立破さんを見る。
「気付かないとでも思ったのですか? あなたは本物のハナブサ・ナルではない。――あなたは、ハナブサの偽者です」
ごくりと
「……どうして」
松ぼっくりちゃんは
「『
「一族……?」
「――その一族のことを、『
「っ」
背後からとどいた
「歌枕さん――」
「わたくしが、その『音読族』なのですよ。立破さん」
松ぼっくりちゃんが背後から「立破さん」と名を呼ぶ。ふり返る。
「あなたは、わたくしや本物のハナブサが参加しているチャット・ルームの中の誰かか、そう、もしくはハナブサと近しい人なのではないですか? だからわたくしの書いた言葉がまにまに王族の内情に通じているのだと判断しえたのでしょうし、ハナブサの代理になりすますこともできた。――しかしこちらには歌枕がいた」
音もなく歌枕さんが松ぼっくりちゃんの傍らに近付き、立つ。齢の離れたこのふたりが並び立った姿は、きり、とした緊張感と、しっくりとした、あるべき場所にあるべきものが収まったような風景であった。
「『音読族』は、『魂音族』か否かを悟ることができる存在です。彼女等は、文字通りわたくしたち『魂音族』の発する何らかの音をキャッチする。手紙媒体、電話、その他インターネット・メールなどであろうと、それが『魂音族』が発した意思であれば、そうであると知られる」
「わたくしは、松ぼっくりさまがチャットなさっているのを、ちらとだけ見かけたことがありました。その時に気付いたのです。「ハナブサ・ナル」と名乗る人物が『魂音族』であるのだと。――しかし、貴方からは全く『魂音族』の気配を感じなかった」
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