30.なんて迷惑。なんて滑稽。


          *


 ハル子さんは、うつぼ君と共に土管屋の階段を黙々と下った。


 そう。ハル子さんが気付かなかったのは、一階に部屋を与えられているはずの立破さんが、三日目の会議の後、なぜか三階に上がって行った事実の不自然さだった。


 ハル子さんが皆にあてがわれている部屋の名を問うた時、彼は右翼一棟最奥(つまり一階の最奥)に位置する『雲丹うにの間』だと答えながら三階に上がったのだ。今回参棟(三階)に部屋を宛がわれたのはハル子さん一人だけである。三階には、宿泊用の部屋以外、特に何という設備があるわけでもない。だのにその動機と目的はハル子さんの部屋でなかった。ハル子さんの部屋には何等変化が見られなかったのだ。とすれば残るは一つ。


 しかない。


 ハル子さん達が階段を降りきり、玄関ホールに脚を入れたその瞬間、うつぼ君の歩みが止まった。


「おい」

「え」

「今、なんか音しなかったか?」

「え?」


 ぱきり。


「――……。」


 した。確かに背後から妙な音が。ハル子さんとうつぼ君は、二人してふり返る。

再びばきりと音。

 ハル子さんは唖然とした。三本のバナナが、彼の膝の上では折り曲げられたままの状態で乗っている。


偽古庵にせこあん君――」

「俺おいてく気か? 自分等、それってエライ薄情なんと違う?」


 目許めもとを細めて文句をこぼす偽古庵にせこあん様は、まくり、と一口バナナを頬張ほおばった。


「俺等三人で考えるんと違ったんか? ちゃうんか? うつぼ」


 じろりと見すえる偽古庵様の眼。

 うつぼ君はにやりと笑った。つかつかと偽古庵様の元まで歩み寄り、彼の膝にある折れたバナナを一本つかんで口に運び、もう一本をハル子さんに投げてよこす。


「違わない。三人で行こう。良いだろう? ハル子」


 ハル子さんの肩から毒気と力が抜けてゆく。

 全くなんということだろう。この少年達はこちらの思惑おもわくをこれでもかとばかりに妨害してくれる。なんて迷惑。なんて滑稽こっけい


 しかし、気付くとハル子さんの頬も、いつしかゆるんでいたのだった。




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