16.『真名制度』
いと
「まにまにの体制は、現日本国政府のそれと、随分かけ離れておりますからな。残存している風習が多い。それが民俗学者に取り上げられる一因ともなっている。例えば
ああ、と
真名制度と云うのは、己の本名を伏せておく習慣の一種である。中国で用いられた
「確か――そんなようなものでしたよね」
前述の説明をいくらか
「現時点で、こう云った風習が習慣として残っている地域は、そう多くありません。このまにまにと、東北のほうのとある地域と、関西では――『
ちらり、とうつぼ君が
「偽古庵君の場合も、フル・ネームは名乗られていらっしゃらない」
偽古庵様は、こくりと頭を縦にする。
「
「――とまあ、地域によっても細々と異なるわけでございますな」
そう呟いてから、いと蜻蜒さまは茶で口中を湿らせた。
「まにまに王族の場合、この真名制度はもっと絶対的です。現世の名前を教えると云うことは、
「でも、僕の記憶の限りでは、〈フェイク姫さま〉達、全員漢字で名前を名乗ってましたよね?」
うつぼ君の言葉に、いと蜻蜒さまは首肯する。
「ですから、本名を名乗っていない――つまり、全くの偽名を名乗っている可能性がある、と云うことになりますな」
「いと蜻蜒さまは、王国のことに随分お詳しいのですね」
さらさらと笑う珸瑶瑁先生に、いと蜻蜒さまもまたにこにこと笑う。
「まあ、ワタシも住んで随分と長いですから」
「そうなんですか?」
ほお、と顔を上げた立破さんに「かれこれ二十年近くになります」と答える。
「ところで、今の女王さんの名前は、なんと云うのでしたか?」
うつぼ君が問うと、やはりいと蜻蜒さまが、にこにことお答えになった。
「にえかがみ様ですな。
「その、「サイモンキキョウ」と云うのが、ここの王家の姓なのですか?」
「表向きはそのよう、ですな」
重ねて問うた立破さんにも、いと蜻蜒さまはにこにこと首を縦になさった。
「どうした偽古庵」
うつぼ君が尋ねると、偽古庵様は眼を閉じ閉じ首を横にふった。
「
指を折りながら数え上げる姿に、立破さんが「ああ」と声をもらす。
「――ところで、話全然変わるんだけどさ、皆どうしてこのお見合いに参加しようと思ったんだ?」
「え?」
唐突な立破さんの話題転換に、ハル子さんが小首を傾げてふり返ると、何やら立破さんは薄い笑いを浮かべた。
「いや。単純な好奇心なんだけども」
「ああ、成る程」
ハル子さんが納得したところで、偽古庵様が気の抜けた溜息を鼻から逃がした。
「俺は、あれですわ。親からの指令」
「指令?」
「さっき、いと蜻蜒さまが云わはったでしょ? 関西にある『
「え」
「王族らしからぬ砕けかたをしているが、これでも本当に王族です」
笑って云ったうつぼ君に、偽古庵様は渋い顔をした。
「お前の家かて、京都のほうのでっかい公家やんか」
「そうなの?」
初耳にハル子が問うと、頼まれもしないのに偽古庵様がえらく嬉しそうな顔で「恥かきっ子の長男なんやで」と注釈までつけてくれた。うつぼ君は「うるさい」と怒って頭を一つぽかりと叩く。
「で? 立破はん。あんたはどうなん」
「え」
偽古庵様は胡座をかいた膝の上に肘をつき、上目づかいで鋭い視線を立破さんに向けた。
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