17.ダークホース
「云い出しっぺはあんたやで。
「そう、だね」
初めは
「オレね、まにまにのある住人と、インターネットのとあるチャットルームで知り合ったんだ」
「ちゃっと」
我知らず
立破さんは「はは」と笑い、照れ隠しのように頭を掻いた。
「彼女はとても聡明な女性でね、お見合いがあることは、彼女から直接聞いたんだ」
成る程、とハル子さんは胸中で首を縦にした。そんな知り方があったか。
「では、立破さんはその女性と面識があると……?」
問うたうつぼ君に、立破さんは「いいや」と首を横にふる。「お互い、ハンドルネームを使ってたからな」
「まさか、それは姫さま本人だと云うことはないですか?」
うつぼ君の言葉に、立破さんはからからと笑い
「いっくらなんでも、そんなに都合の云い話はないだろ。でも、そうだったら嬉しいとは思うけどね」
今日の昼からは、姫さま達を誘っての外出が許可されている。いくら共に作戦会議を開いてみようと、彼等はいわゆる恋敵なのだ。十二時を前に場は解散し、それぞれ自室に戻るため立ち上がった。
まず、
「ねぇ、うつぼ君」
「ん」
先に廊下へ出ていたうつぼ君は、中庭を見つめていたらしい。首をぐるりとこちらに回した。
「
小声で問うと、うつぼ君は一瞬言葉の意味を吟味したような顔をして、それから「ああ」と納得の吐息をもらした。
「それが
「ふうん」
新たな発見だった。
「そう云えば、みんなの部屋の名前を聞いていなかったわね。いと蜻蜒さまはここ『松露の間』でしょう? それから、うつぼ君が……」
「『
「俺と珸瑶瑁は、一緒に『
前を歩いていた偽古庵様が、くっ、と親指を立てて背後を指す。弐棟の最手前の部屋であるらしい。
「オレは『
すでに階段を登りきってしまっていたらしい立破さんが、聲だけを下階に投げかけてきた。
「ありがとうー」
ハル子さんが手を口許にあてて叫ぶと、上階のほうから「はははは」と爽やかな笑い
『松露の間』から引き上げた後、どうやら女性を誘う行動力に欠けるらしい婿様候補のうつぼ君、偽古庵様、ハル子さんの三人は、例の小食堂で昼食を共にした。姫さま達は誰も顔を見せず、ハル子さん達の他は、隅のほうの席で
「なんや――俺らエラい暇人みたいやな」
香辛料をふんだんに混ぜ込んだソーセイジにフォークを刺しながら、
「いと
「なんやインターネット・カフェに行くんやて」
「インターネット・カフェ?」
「
「で、その珸瑶瑁先生は?」
「さあ?」
「さあって、聞いていないの?」
驚いたハル子さんに、偽古庵様は苦笑しながら立ち上がった。
「俺らかて、四六時中べったりや云うわけやないんやで」
そのまま偽古庵様はコーナーまで歩いてゆき、戻ってきた皿には三本のバナナを乗せていた。椅子に腰を落としつつ、「それにしても……」と眉根をよせる。
「あの人こそ、姫さまが誰か知ってそうなんやけどなぁ」
「誰のこと?」
「いと
「いと蜻蜒さまが?」
「だって、二十年近くここで暮らしてる云うとったやん」
「知っていたとして、教えてくれると思う?」
ハル子さんの突っ込みに、偽古庵様は一層眉間の皺を深くして「うむむ」と唸った。
「まぁ、ありえへんやろな」
「当然でしょ。あの人も一応婿候補なんだから」
と、唐突にうつぼ君が立ち上がった。
「どうしたの?」
ハル子さんが見上げながら問うと、うつぼ君は口許を拭い終わったナフキンをテーブルの上に落とし、その流れで襟元を直した。
「喰い終わったら、外に出よう」
「は?」
「話がある。三人でだ。僕はロビーで待っているよ」
一人で話を決めて、うつぼ君はすたすたと小食堂を出て行ってしまった。その動きに、提案を却下される可能性を考えるふうは
「彼、いつもこんなふうなの?」
「まあ、スイッチが入ったらこんなモンかな」
「スイッチって?」
「探偵趣味のスイッチや」
ハル子さんは眉間に皺した。
「探偵趣味? 彼ってそう云う人なの?」
「ああ。こういう謎解きっぽいのんが眼の前に差し出されると
「――
「ん?」
「なんでもない」
ハル子さんは、まだグラスに半分ほど残っていたミックス・ジュースを一気に飲み、かたん、と円卓の上へおいた。
「嫌だわ。――彼がダークホースなのね」
「かも知れんな」
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