15.『魂音族』



「だけど、鬼打木おにうちぎさんは候補から外して考えてもいいと僕は思う」

「なんでやうつぼ」

「自分の見合いに顔を出しもしない公主なんて話はないだろう。よしんば本物だとしても見合いと云う形式に反発しているのだとしたら、はじめから見合いなんて成立しない。誘いをかけるだけ時間の無駄だ」

「相変わらずドライやなァお前。まあ、俺も鬼打木はんは外してもエエと思うけど」

「そうかしら? 恥ずかしがっているだけかも知れないじゃない。いくら何でも思索から外すことはないと思うわ」

「甘いよハル子。あれは恥ずかしくて〈見合い〉から逃げ隠れするようなタマじゃあない」

「――……。」

「しかし――」


 ぼそりと呟いた偽古庵にせこあん様は、ずずうと茶を啜ってから「実際、困ったことになったナァ」と頭を掻いた。


「結局、あの四人の中に本物はひとりだけや云うことやろ? 本物が誰かわからへんままこれから一週間過ごして、そんで結局どないなんの?」


 云いながら、持参してきたらしいバナナの塊から一房引き千切る。そして皮をき、もしゃもしゃ美味そうに喰い出した。


「オレ、さっき古里フルサトさんに聞いてみたんだけど、公主が婿に選んだ人間を名指しするんだとさ」


 茶菓子に手を伸ばしながら、立破りっぱさんが説明する。


「そうなんや? ――まあ、むこうは選り取りみどりやけど、もし婿側が心変わりしとったらどないなるんやろ」

「心変わり? どう云うことだ偽古庵」

「例えば、選ばれた婿が本物の姫さんやのうて、ダミー姫のほうに惚れてまうアクシデントとか、本物の姫さんは気に入らんかもとか、色々あるやんか」


 素朴な疑問を口にした偽古庵にせこあん様の横から、珸瑶瑁ごようまい先生がハンケチを取り出し差し出す。


「偽古庵様。バナナかすが口周りに」

「ああ、すまん」



「そのことならば心配要らぬでしょうな」



 それまで黙っていた、いと蜻蜒さまが口を挟んだ。


「どう云うことですか?」


 うつぼ君の問いに、いと蜻蜒さまは一先ず自分の茶碗に茶を注ぎ足してから説明した。


「ここ、まにまに王國の王族は、なかなか特殊な一族でして。――まあ、まにまにと云うくに自体、なぜかしら変わった一族が集まりやすいと云う特徴を持っているのですが――この王族、世にも珍しい魂音こんいんの血族なのですよ」

「ああ。まにまにの王族が、あの連続魂音族こんいんぞくだったのですか」


 こえを上げたのは珸瑶瑁先生だった。


「珸瑶瑁。お前知っとんのか」

「ええ――まあ」

 

まるでハル子さんが如く答える珸瑶瑁先生に、いと蜻蜒さまの眉毛がぴくりと上がる。


「御存知、と」

「少々聞きかじった程度ですが」

「一体どんなものなんですか」


 立破さんの問いに、珸瑶瑁先生は居住まいを正すと、なぜか首の後ろに掌をやった。癖なのか。


「『魂音こんいん族』――と呼ばれる人々がありまして、彼等は生まれる前から結ばれる相手が決まっているのだそうです。魂とは輪廻転生を繰り返すものですが、『魂音族』は、その魂が誕生した瞬間から半身と呼ぶべき魂と対になっており、何度生まれ変わっても、その半身の魂と結ばれるのだそうです」


 うつぼ君は「へええ」と感心したふうに顔を縦にした。


「つまり、その『魂音族』と云うのは、絶対に運命の恋人をまちがえないと云うことか」

「うつぼ。お前そのセリフ臭すぎ」


 突ッ込んだ偽古庵様の額に、うつぼ君はぺしり、と裏拳を見舞った。


「いえ。そうと決まったものでもありませんよ」


 口を挟んだのは、いと蜻蜒さまだった。


「え」

「『魂音族』であっても、半身以外の人間と婚姻を果す場合は、あるンでございます」

「じゃあ、まにまにの姫さん達も、間違えることはあるわけですか」

「今後どうなるかは、わかりませんが。しかし、これまでのまにまに王國の女王達が半身を間違えてこなかったことは、事実ですな」

「そら一体、どう云うことなんですか?」



「『魂音族』は、のです。そも『魂音族』と云うのは遺伝するものでなく、突然変異的に現れるものでして、それはまあ、魂がどこに生まれ変わるかで決まるンですからな、当然の話ではあります。ですから、まにまにの王族が変わっているのは、その生まれてくる子供の全部が全部『魂音族』だという点にあるのです」



「それは――」


 云いかけたうつぼ君は、そこでいったん言葉を切り、「――王族としては、随分危険な体質なのではないですか?」と続けた。

 いと蜻蜒さまも、うんうんと首を縦にふる。


「そうなのです。ですから、まにまに王國の王族は、決してあやまたず半身を探し出さねばならぬのです」



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