第7話

「おい、巫女呼んで来い」


 男たちのなかの一人が奥のほうに向かって叫んだ。俺たちの牢屋の更に奥に向かって。そういえば、あっちには何があるんだ?奥のほうには光が届かないみたいでつねに真っ暗だ。だが、夜になると男たちがあっち側にひっこんでいき、朝になるとこっちに戻って来る。


 何があるんだ…?


 そうか、やっと思い出した。俺は、ここに入れられてからまだ2日しか経ってない。2日でこれか……。


 周りの者は皆、力なく横たわっている。これ以上、飯を抜かれるともたないかもしれない。ばばが後ろで不安そうな表情を浮かべている。


 これ以上、飯を抜かれれば、この檻の人間全員もたないんじゃないか?


 あむんこの肩を叩いて、離れさせる。


 殺すのが目的なら、ここにわざわざ連れてこなくてもすぐにあの場で殺されているはずだ。なら、俺たちが死ぬことは恐らく目的外なんじゃないか?


 …俺たちを何かに使う?……そういえば、昔、攻めてきた村には確か…使い捨ての人間がいたな。…小競り合いで終わったからよかったが……今回は、それですまなかった…。つまり、俺たちを使い捨ての人間にする気か?


 男が少なくなっていたとは言え、ていうかそれを知ってたかどうかは知らないが、一つの村を襲ってまで手に入れるものか?村に攻め入る途中で死ぬ人間と照らし合わせたとき、普通だったら割に合わないんじゃないか?


 やつらが攻めてきたのは、最悪なことに多くの若い男たちがあの輝く奴についていった後だ。だから、攻め込むのは簡単だっただろう。最悪だ。防衛を指揮していたおぼるが流れ矢で死んで、一気に抵抗できなくなったからな。相手は何人死んだんだ…?


 目の前では、影があわただしく動いている。一つの影がこちらに向かってくる。なんだ?何か、食ったことがばれたか?いや、巫女を呼んで来い…?確か、そう言ってたな。奥のほうに巫女がいるのか?あいつ、奥のほうに入っていったな。


 「いんやぁ、頭、そうえば巫女はこないだ死んだじゃないですかぁ」


 奥のほうに向かっていた影が、踵を返しながら言う。


 「あぁ……そういえば、そうだったな……あー…じゃあどうするか……」


 奥のほうに行っていた男が元の場所に戻る。周りの男がなんか言っている。声が混じりすぎて何を言っているのかは分からない。


 「あぁ…!そうだな!その手があったわ!」


 さっき、巫女を呼ばせに行った男が立ち上がり、こちらに近づいてくる。大きな人影がだんだんと人になっていく。角ばった顔、大きな鼻、茶色の肌、首まで延びた髭、こちらを見透かすような目。そいつが何かを手に持って近づいてくる。


 …剣?


 殺される…?


 あむんこの手を引っ張り、男とは反対側へ下がる。


 殺される!?殺される!?


 「おい、そこのお前、巫女だろ?こっちに来い」


 男が牢の格子と格子をつないでる紐に剣を突き立てる。そして、そのままギコギコと引きながらこっちを向いて言う。いや、俺ではない。俺の前にいるばばに向かって話している。


 ……どちらにせよ、こいつはいま牢をあけようとしている。今が……チャンスじゃないか?あの男が格子を外した瞬間にここの全員で協力してそこに飛び込めば……。


 ありんの親父に近づく。横たわっているが、多分息はしてる。


 背中を叩く。


 「おい…」


 ……殺した声で呼びかけるが返事が無い。それどころか反応らしい反応が無い。肩を見る。息はしてる。


 もう一度、背中を叩く。


 「おい」


 駄目だ……。改めて見回す。全員が横たわっている。今、この場で中腰になり、腹を地面につけてないのはばばと俺と、あむんこだけだ。


 …まさか、全員がこの調子か?


 男が格子をどける。


 「おい、ババァ、聞こえねぇのか?お前だよ、お前!」


 今だ、やるなら今しかない。俺以外にも、誰かいるはずだ。起き上がる奴の1人でもいれば……。俺がやれば皆が動きださなきゃいけなくなる!みんなが起き上がりさえすれば!


 「わたし……?」


 「だから、そうだって言ってんだろ?お前、巫女だっただろ?こっちに来い!」


 男がずんずんと牢の中に入って来る。


 「っち……ひどい匂いだな…こりゃ」


 ……全面ががら空きだ。逃げるなら今しかない。……俺とあむんこだけ逃げてもすぐに捕まるだけだ。全員で逃げないと…。


 ………


 男がばばの手をつかみ、引きずり出していく。


 ………


 手をつないでいるあむんこの顔を見る。


 目を大きく見開いて回りを見ている。


 誰も立ち上がるどころか身動き一つしねぇ…。


 ばばが、男に引っ張られて完全に牢の外に出る。


 「おい!誰かこの牢、結びなおしておいてくれや!」


 すぐに影が走って来て、縄で目の前の格子を閉じる。


 今がもう二度と来ないほどの好機だった。なのに、誰一人動かない。言葉すら発しない。足元のありんの親父を再度見る。ただ目の前を眺めている。ただそれだけだ。


 ばばが…連れ出された……。だんだん男に手を引かれ、姿が影になっていく。


 何をする気だ……?


 「よぉ、ばばぁ、お前巫女やってただろ、ほれ、これ、分かるだろ?亀甲」


 それまで影だったはずの男たちとばばの姿が何かに急に照らし出される。火が付いたのか。そういえば、さっきから何か影がせわしない動きをしていた。あれは火を起こしていたのか。


 「…やり方は分かるよな」


 亀甲…?それをどう使うんだ?ばばが占いをするときは鹿の角でやっていた。


 


 

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