第4話

 耳に波の音が入って来る。


 目を開ける。少しだけ空が白み始めている。今は早朝か。気づかない内に寝ていたのだろうか。


 周りを見る。相変わらず、牢の周囲にいる男たちは明かり一つ無い中で岩肌に寝転がってしきりにいびきをかいている。


 牢の中は、膝を抱えて揺れている者。仰向けのまま動かない者。逆にうつぶせで丸くなっている者。皆がそれぞれの恰好でいる。隣ではあむんこが膝をかかえたまま横向きになって小さく寝息をたてている。


 牢の前に彼女。当たり前かもしれないが息をしていない。もしかしたら、目を閉じて開けたら何事もなかったかのように立ち上がるかもしれない。いや……、いま起こっていることが全部悪い夢で……俺は自分の家で目覚めるかもしれない。


 ……目をぎゅっとつむる。


 思い出す。輝く男が来てから後のことを。


 集会が解散となった後、横にずれた男たちが各自、自分の武器を取りに行きまた別れを言うための時間が用意された。


 たかみねに向かって走っていく。


 「お前、本当に行くのか?」


各自、それぞれの家族や女の元へちりじりに向かっていっていた。たかみねも恐らく家に行こうとしていたのだろう。呼びかけに応じてこちらに振り向いた。


 「ん?ああ、だってなんかすごそうじゃん」


 あっけらかんとした様子で言う。


 「いや、お前…田はどうする?家族はどうするんだ?」


 「あー、まあ、なんとかなんだろ、それに稲刈りまでには帰れんだから田は問題ねぇだろ畑はまぁ……なんとかしてくれ…」


 あむんこが遅れて、俺の横に来る。やはり、苦しいようで喉から変な音を出していた。


 「逆にお前はいかねえのかよ?またとないチャンスだぜ?何か凄いことを成し遂げられる」


 「……まず、あの男の話が本当である確証が無いよ…」


 隣で苦しそうにあむんこが言う。


 「ひゅ~……稲刈りまでに帰ってこれる確証が無いよ……こっから………大体ぃ…稲刈りまでは次の田植えまでの半分だ、だから……ひゅ~……少し寒くなり始めるころだよ、男の連れている人たちを見て……あれで足りないなら、きっと相当大きな戦いをしようとしてるんだ」


 たかみねはイライラしているのか頭を掻きむしりながら、息を吐きだす。


 「はぁ……まずさ、あの人は信じれるだろ?あの言いっぷり、うそを言ってるわけがねぇだろ?そして、あの人が相当な数を連れてる目的はあくまで結束を示すって言ってたじゃねぇか?」


 「だから、それが嘘なんだよ…部外者から見たらこいつがどこどこの集落でなんて分かるわけないじゃん、それにあれだけの人数を動かすにはそれなりの食料が必要だ……つまりそれだけの食料を用意するぐらいの効力を少なくとも期待してるってわけだ……それが結束を示すだけに終わるわけがないだろ…?結束を示すってだけならあれの半分…いやもっと少なくていい筈だ……あの装備ならもっと少なくても何かに襲われたりはしない…」


 そういえば、その日はなんだか朝から少し、木が焼けるようなにおいがしていた。起きて、その匂いが鼻に届いた瞬間は誰かが何か燃やしてるんだろうってだけで何も気にしなかったけど、ずぅっと鼻に薫っていて何か違和感を感じていたな。


 「話にならんわ、お前はどうなんだよ?」


 たかみねが俺に問いかけていた。


 「俺は……正直、うそとか本当とかよくわからん、なんならあの男の言ってる事が嘘とか思えない…」


 「やっぱりそうじゃねぇか、よしっ!それならお前も一緒に!」


 「ただ…俺は行かねぇ……俺は、この村にもう礎があって……それに若いのが皆いなくなったら村が立ちいかなくなる…そうなれば、お前の家族だって結局皆死んじまうんだぜ?そしたらどうにもはならねぇ…」


 こちらを見ていた顔が、期待の表情から明らかにつまらなそうな表情へと変わった。そのまま、たかみねは踵を返し、こちらに背を向けた。


 「あっそ、ふーん…じゃあ頼むわ俺の家族のお守をよ」


 明らかに皮肉だった。


 「お前……そんなんで良いのか?」


 俺との最後の言葉が。


 喉まで出てきたがなんとか奥にしまい込んだ。それを言ってしまったら本当に最後の言葉になってしまう気がしたんだ。たかみねが連れ出されて、生きて帰って来る保証は無い。確かにあの男の話を疑うことは俺も難しかった。だけど、あむんこの話を聞いて少しだけ納得してしまった。


 だから、それもあってこれが最後の言葉じゃないかって事が頭によぎったんだ。


 たかみねは振り返りもしないで、武器を取り、皆と一緒に連れられて行った。遠くに行く男たちを見送る時、自分たちの村がここまでスカスカになったのは初めての経験だったので何か不思議な感じがした。


 「長!なぜ、止めなかったんですか…?全員は無理でも、あれだけの大人数を行かせるのは防げたはず!」


 輝く男の集団が、こちらの声が届かないであろうぐらい離れた瞬間に、衆目の前で長におぼるがつめ寄る。確かに、それはこの場にいる全員が知りたがってることだったろう。ただ、長は普段からあんな様子で重要な決断ができないふしがある。ただの癖だと思っていたが。


 「実はな……あれが言ってることに嘘はないんだ…あいつはクニってものを作ると言って西のほうからずっとここまで来てるらしい」


 自分に自信がないのか、なよなよしく応える。


 「……今すぐ、残った村人全員を集めて来てくれ…説明させてほしい……」


 そうして…広場に集まらせた村人達の前で、長は説明を始めた。


 「あの男は……クニというものを作る気で戦える人間を集めてる…おそらくあの大群の目的は威圧と略奪だ……少し前、一つの村が破壊され略奪された、家は燃やされ、ほとんど殺されたらしい…生き残りが言うには奴の誘いを村は拒否したそうだ」


 その時はちょうど、空が少し明るさを失いかけていた。夜になろうとしている。普段なら寝る準備をしているぐらいだった。


 「これが長の集まりで聞いた話だ…だから奴の言う事にむやみに逆らえば…」


 

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