第3話

 「おはよう!今日もごくろうさん!俺はすいしょうという者だ……それにしても今日は暑いな!まあこうして女の裸が拝めるからたまには良いな!なあ!君たちもそうは思わないか?」


 男たちから笑いがあふれ出す。輝く男は黒々とした髭をなでながら、口の端に笑みを浮かべ、足を肩幅に開いて立っていた。全く気後れする様子も無かった。


 「俺は今、ここらへんの村々に協力しようと言って回っている、今回、君たちの村を訪れたのもそれが目的だ」


 なんとなく、みんながこの男の話を真剣に聞いていることに気づいた。


 「前の村は、俺たちを見ただけで弓を放ってきた!だから、俺は攻撃しにきたんじゃない!俺たちに弓をうつよりもまだそこら辺の獣に射精したほうが有益だぞ!と言ってやった」


 また、場から笑いが噴き出る。こんな物言いをする男を今まで他に見たことが無かった。いや、これから先もきっと二度と見ないだろう。


 「だからこそ、攻撃しなかった君たちには感謝している!こうやって落ち着いて話ができるからな!」


 すいしょうと名乗った男は続けた。


 「俺はクニというものを作ろうと思っている!一つのむらだけじゃない、いくつもの村が互いの濠を超えて田畑を作り、支え合っていく……それがクニだ!もう、外から来る者を怖がる必要も無い!交易だってもっといっぱいの富を生み出していくだろう!」


 なんとなく、その時、周りの男たちの目に光が宿っている気がした。男の服の光が目に入っているんだろうと思っていたが、それだけじゃないんだろう。


 すいしょうは身振りを交え、横に行ったり来たりして、その場にいる俺たち全員に向かって語り掛けるように胸を張って話していた。


 「もう凶作に泣くことも無い!1つの村ではできないことがクニなら簡単にできる!いくつかの村の貯蓄を分け合えば、一つの村が全く何も食べ物がなくとも簡単にまかなえる!これからの一生!この生活をただ続けるだけで何年先までも食べ物の心配をすることは無い!」


 俺はすいしょうの話がなんだかよく分からなかった。きっとあむんこもよくわかってなかっただろう。周りの男たちだって……。でも、それは大して重要じゃなかった。この目の前の男からは何か凄いことを成し遂げる、凄い人物であるという妙な感覚が漂っていた。


 「だが……実はな……クニになるにはまだ協力しあえる村が足りないのだ!今よりももっともっとここいらの村を巻き込まなきゃいけない!そして……そのためには君たちの力がいる……君たちのなかの何人かを連れて行き、俺たちの結束を示さなければいけないんだ!」


 なんとなく、この男のしようとしていることがすさまじいことであるということだけが理解できた。きっとこの場にいた全員がそうだろう。だからこそ、ああなったんだ。


 「この村もどうか俺に力を貸してほしい!より素晴らしい明日のために!尽きない米のために、君たちの男を何人か連れて行かせてほしい!」


 普段、他の村に行く機会など殆どない。たまに、交易に行く者がいるが基本的にそれは家で決まっている。大多数の者はこの村で農業に従事し、男なら家を建て、米を貯め、時折狩に出かけ、女なら子供を産み、しばらくは伏し、飯を作り、いずればばぁとなって死ぬ。だからだろう。


 「俺を連れて行ってくれ!」


 次々に集団からその声があがり、剣が掲げられる。多い。非常に多い。特に、俺とおなじぐらいの頃合いが多かった。


 胸がばくばくとした。俺も行きたい。俺も行かなきゃいけない。俺も外の世界に行って、この男と共に何か想像もつかないようなとてつもないことの一因になりたい。そう思って右手をあげようとして、すぐに少し後ろにいるありん、そしてあむんこを見る。


 ありんは心配そうな顔でこちらを見ている。まさかいかないよね。なんだかそんな声が聞こえた気がした。あむんこもそんな顔だった。


 ………


 「よぉし!では、俺と来たい者は横にずれろ!」


 俺は、行けなかった。好きな女と頼りにしてくれる男。両方を捨てていくことなんてできなかった。俺には親がいなかった。あむんこと同様に流行り病で昔死んでいた。だからだろう。誰かを置いていくことができなかった。


 俺たちの集団はやけに小さく感じた。横にずれた集団が多いからだ。半分以上は残っているだろう。だが、横にいるのは皆若くて力のある者ばかり。俺と一緒によく遊んでいたような男ばかりだった。


 こちらの集団から止める声がいくつもする。輝く男の少し後ろに立つ長は、ただ黙って不満そうな顔でそれを見ている。


 「おいおい!ちょっと待て!こんなに行っちゃあ田が……」


 おぼるが言う。本来であれば、長がいうべき言葉だ。おぼるはこういう時、率先して長の代わりに発言し行動する。俺より歳の頃合いは結構上だ。


 輝く男が大笑いする。


 「こんなにいるとは……嬉しいぞ!そこの男!大丈夫だ!稲刈りには帰らせる!」


 なんだか、凄い。きっと、本当に稲刈りには帰って来るだろう。そういう気がする。本当に。そういう気がしていた。


 きっと俺も、何もなければついていっただろう。きっとそうだった。横にずれたくてしょうがなかった。だが、俺は横にずれれない。


 横にずれた連中をじっくりと眺める。


 その中には、たかみねの姿もあった。俺の幼いころからの友達だ。


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る