第2話

 外の光が消え、すっかり暗くなる。横を見る。不安そうな顔の男たち。俺を含めて10人、そして女が3人。月明かりも入らない、洞窟の中では互いが互いに誰だか分からない。かろうじて分かるのはそこに人がいるということだけだ。


 牢の外からは大勢のいびきと波の音だけが反響して聞こえる。昼間とは打って変わってとても静かだ。牢の中では大勢の声を殺したすすり泣きばかりが聞こえる。


 「どうするよ……長」


 隣で項垂れている小太りの男に向かって本当に小さな声で話しかける。


 俺たちの長だ。手と額に切り傷を作って、肩を震わせている。ありんの親父は奥にひっこみ宙をただ見つめている様に見える。


 「どうするもこうするも…ない、ここからどうにかできるか…?」


 長が震えながら、殺した声で答える。


 小さくため息を吐く。ここからどうにかなるか。この牢は頑丈で俺一人の力ではどうしようも無い。全員で協力しても厳しいだろう。しかも、もし壊そうとすれば流石に寝ているこいつらも気づくはずだ。


 「じたばたしても始まらない、こんなことを言うのもおかしいが、この疲れた状態で考えても仕方ないから今は休んでおけ」


 後ろからおじさんがこちらの肩を叩いて話しかけてきた。


 「そうだな……」


 大きな牢屋だ。高さは人がぎりぎり立ち上がれるほどだが、奥行きと幅がそれなりにある。皆が横になって寝れるスペースぐらいはぎりぎりあるだろう。


 音を立てて、洞窟の男たちを起こさないように慎重に彼女の手を離す。離れる前に、その顔をじっくりと見つめる。いろいろな思い出が頭に思い浮かんできて涙があふれた。どうして彼女が死ななければいけないのか。特別彼女の必要があったのか。


 震える肩を抱きながら、空いているスペースに移動し、横になる。思えば母も死んだのだろう。


 どうして……どうしてこんなことになったのか。


 目をつぶり、深い闇の中、男たちの嗚咽と抑えたすすり泣きにつつまれて時間をさかのぼっていく。


 はじまりは、5日前だった。あの日、やけに日が強くて、いつもの日課の耕作が辛かった。長が田に人を割り振り、そこいらで泥に足をしずませながら苗を植えていた。俺も苗を植えながら遠くにいる、子供達に手順を教えつつ苗を一緒に植えているありんを見ていた。目があって、笑いあったのを良く覚えている。


 俺の隣にはあむんこがいた。俺より少しばかり年下の体力がある元気な奴だ。ただ幼いころ、奴の両親が流行り病で死んで以降、あまり周りの子供たちと遊ばなくなってしまっていた。村のばばぁ共はやたらと世話を焼いたがあむんこはそれらのお節介にも気が乗らないようだった。


 だから、俺が暫く一緒に過ごした。皆が匙を投げて、一人でいたから。何を聞くわけでもなくただ一緒に毎日過ごした。こいつは、飯関係がすさまじく苦手で、新しく畠を開くときもそうだし、獣を外に取りに行くときもやたら変なところで苦労していた。すぐに、変な音を口から出していた。


 でも、置いていくわけにはいかなかったからどんな時でも絶対に見捨てず、一緒に手伝ってきた。何よりもなんだか可哀そうだった。親もいなく、ばばぁたちも匙を投げたこいつは世話する奴がいなければすぐに死ぬだろうと思ったんだ。


 そんなわけで仲良くなって、何するにしても一緒だった。


 あむんこが言う。


 「兄ちゃん、今日さぁやけにあっついね…こんな暑かったらこめとれないよぉ」


 「おー…、あ、いってぇ、ヒルに噛まれた」


 「取ったげるから見して」


 なんてことはないいつも通りの会話だ。住む場所もあむんこと同じ家だった。彼は身寄りが無くて家を持ってなかったし、建ててくれる人もいなかったからだ。元々あむんこがすんでいた家はどっかの夫婦の子供が大きくなって1人で住む用に使われていた。


 その時、遠くからこちらに向かって声が聞こえる。


 「おーー--い、長ぁ!!なんか、えらい軍勢が来るぞぉー---!!!」


 その瞬間、村中が敵襲の知らせと判断する。それまで、田にいた人間は俺たち含めて、全員がすぐにそこを離れ家に入る。目的は武器を取ってくることだ。


 右手に黒々と光る刃を持ち、胸を苦しくしながら急いで外に出る。村を囲む濠の向こう側を見る。確かに、何人もの人間が遠くのほうからやって来る。村人全員が濠に唯一しかれた橋の前の広場に集まって、前に立つ長の指示を待つ。


 「おいおいどうすんだ長?どうする?」


 群衆が口々に指示を求めるが、長は目の前であたふたとするばかりだ。こういう時、この男は本当に頼りない。親が優秀な長で、田畑をいくつか増やし、飯も確保できたからこそ息子にも期待して世襲にしたと聞いていたんだが……。


 「まぁ、落ち着け皆々!こうなりゃ、俺たちはここから逃げて死ぬか、ここで戦って村を守るかだ!さぁどっちにする!?」


 長じゃない。この声はおぼるだ。


 場が一気に沸き立つ。胸の中に何か熱いものを感じた。一体感か。剣を大きく天に突き出して叫び、その後迎撃の姿勢をとる。


 弓を持った男たちが前に並び、剣を持った男たちは広場に通じる道の少し後ろに固まる。


 だが……確か、目的は攻撃じゃなかった。すぐ近くに来ても攻撃してくる様子が無いから長が話に行って、そのまま向こう側の何人かをこちらにわたらせていた。一番最初に渡って来た男は印象に残っている。今まで、見たことも無いような服を着ていたからだ。


 まるで上半身が鱗のような恰好だったのを良く覚えている。光を放っていて非常にまぶしく、直視できなかった。右手に握る剣すらも光り輝いていた。そして、後に続いて入って来た幾人かの男たちも黒い大きな鱗のようなものか、何か模様の書かれた板がそれぞれ糸か何かでつながったものを着ていた。


 糸でつながれた板を着た大勢の武器と盾を持った男を後ろに、光り輝く男が堂々とこちらに向かって語り掛けてくる。


 

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