第46話 対峙
クララとライリーはなりふり構わず走っていた。城で働く者に見られようが何しようが、お構いなしである。
というか、そもそもクララはこの国の王女であるのだから王宮にいること自体は全くおかしいことでもない。
その上、ライリーに関しても一応の配慮で王宮の執事の格好をして走っているので、側から見ればなぜか執事から逃げている王女の構図で通せる。
王宮の者たちからクララが落ちこぼれ、変人と思われているのも相まってライリーに対して「お気の毒に」という哀れみの目線を向けられるだけなのだった。
『何だか納得いかないわ! 絶対誰かが立ちはだかると思っていたのに! 私は変人だからってこと? というか、見覚えのない執事がいることぐらい気づきなさいよ!』
『まぁまぁ。その方が俺たちにとっては好都合じゃない。ありがたいと思わなきゃ』
『それは……そうね』
不服そうなクララ。だが、障害は少なければ少ないほど良い。思念通話魔法でライリーに説得されたクララは、ひとまず納得しようと試みた。
『次は?』
『こっちよ!』
『了解!』
クララの誘導によってスムーズにことが運ぶ。これは何かの罠なのだろうかと一度は疑ってみたが、どうもそんな気配はない。
アイーヌが何か仕掛けた気配はなければ、他の使用人が何かした気配もない。
結局のところ、本人に直接対峙して話を聞くほか突破口はなさそうなのである。となると、やはり計画通りシェイラの元へと急いだ。
『着いたわ!』
これまでライリーと共に直接来たことはなかったシェイラの部屋のドアの前で立ち止まる。
病気のシェイラを思ってなのか、目の前に使用人がいない。これでは侵入し放題じゃないかと少々注意の浅い両親に呆れつつ、クララは部屋のドアをノックする。
「姉様? クララです。少しお話をしたいので、入ってもいいですか?」
しかし、返事は返って来ない。
『やっぱり、アイーヌが何かしてるのかな?』
『ただ姉様が寝ていらっしゃる可能性もあるわ。何でもかんでもアイーヌのせいだと決めつけてしまうのは良くないわよ』
『……そうだね。クララ様を悪くいってる人と同じことをしてることになっちゃうし』
『えぇ』
やっぱり、何か疑いがあるからといって悪人と決めつけられる辛さを良く知っているようだ。ここの場面ではアイーヌを庇う。
あくまで、きちんと証拠が揃ってから判断をしようと決めているらしい。
『とりあえず、ドアが開くか試してみる?』
『……そうね。何かあったら大変だし。勝手に入るのは、気が引けるけれど』
ドアノブにクララが手をかける。
ガチャリ、という大きな音。
それに気づいたのか、こちらへ歩み寄ってくる足音が聞こえる。
「どうかされましたか? シェイラ様は寝ていらっしゃいます。御用がおありでしたら、また後でいらっしゃるのをお勧めいたしますが」
「アイーヌ……何でここにいるのよ」
やはり、出て来たのはどうしてもここにいるのが不自然にしか思えないアイーヌだった。
早速クララは問いの姿勢に入る。
「同僚に、ここを見ているよう頼まれたのです。今急ぎの仕事が入り、シェイラ様のお側を離れなくてはならなくなったから、と」
淡々といってのけるアイーヌ。先程まで小刻みに揺れていたのが嘘かのように表面上はしっかりした態度をとっている。
「では、なぜその同僚は姉様の他の侍女に頼まなかったの? 他にもいるはずよね?」
「他の者たちも、どうやら忙しかったようなのです。それで、やむなく私に……」
口からスルスルと言い訳が出てくる。結構口が達者なのだろうか、などと横で聞いているライリーは思う。
「それよりも、クララ様はなぜここに? それに、その隣の執事、私は見覚えがないのですが?」
とうとうアイーヌからの反撃である。
これに対抗しようと2人は同時に口を開いたのだった。
つづく
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美しき輪舞〜平穏無事に生きてみせます!〜 蔵樹紗和 @kuraki_sawa
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