第45話 侍女はそのとき

 アイーヌは王宮にいるはずである、ただそれだけの情報を頼りに疾走しているクララとライリー。


 この行動が正しいのかなんて2人には全くわかっていない。むしろ2人にとっては間違っていてくれた方がうれしいほどである。


 それでも、足を止めるわけにはいかなかった。


「私たちの予想が正しければ、今頃アイーヌは姉さまの部屋にいるはずよね!」

「うん、多分ね。何かをするとしたら今がベストタイミングだよ」


 生徒会が発した、「外部の協力者」という言葉。あれはまるで、一方的にクララを挑発しているような言い方だった。タイミングも、何もかもが。


 もしかしたら、本当はクララとシェイラが仲良しなことを知っているのかも知れない。それならば、外部の協力者がいることを明かした理由もわからなくはない。


 本気で潰しにかかってきているんだ。


 ここまでの考えが走っているうちにまとまってきているのが、今のクララの現状であった。そして、ライリーも同じルートからとは言えど、同じ考えに至っている。


 こうなっては走らないわけにはいかないのだ。


(お願い……! ただの私たちの思い過ぎであって! 姉様になんかあったら、一生悔やみ続けるに決まってるわ……!)


 クララの額から一粒の汗が流れる。ライリーも、普段より一層真剣な眼差しである。


 そんなクララとライリーは、とうとう王宮に辿り着いた。


「よし、行こうか」

「えぇ、いつでも良いわ」


 覚悟を決めて城の中に飛び込む2人。クララの最愛の姉・シェイラを助けるために。


 今、負けられない戦いが幕を開けた。



***



 一方その頃。


 シェイラの部屋にはなぜここにいるのか理由がつかめないアイーヌが居座っていた。


(今日の依頼、なぜか内容が変わったのよね。何があったのかしら?)


 本人も状況をうまく把握できていないようだ。じっと瓶を見つめて動かない。


(今日はただシェイラ様のそばにいてくれと、そして、そのうち入ってくるだろうクララ様を糾弾しろと言われた。それって、やっぱりクララ様を陥れたいの?)


 急にシェイラに薬を盛るよう命令してきたり、クララを貶めるように命令してきたり、行動が一致していないことに戸惑っているらしい。


 自分はここにいて良い人間じゃないのにとため息をつくアイーヌ。その横には、ベットの中で眠るシェイラの姿。


(シェイラ様が寝ていて下さって本当に良かった。そうじゃなかったらきっと怪しまれて終わっていたはず)


 シェイラの聡明さは誰もが認めるところだ。もちろん、アイーヌも例外ではない。


 そんなシェイラをも騙そうと画策されている謎の命令に、少々恐怖を覚える。そして、アイーヌは自身がそれに加担してしまっていることにも恐怖を覚えていた。


(こんなつもり、なかったの。ただ、家族を守りたかっただけ。クララ様が来たら、逆に私が糾弾されるに決まってる。

周りがどちらを信じるかは別として、あの姉大好きな王女様に言われるのはいくら嫌っている相手でも心が折れる)


 ぎゅっと拳を強く握りしめる。それでも、体が小刻みに揺れるのは抑えられない。


(どうしたら、どうしたらいいの……? 私には、何もわからない)


 彼女は今になって事の重大さを理解した。その後悔だけが頭を支配している。


 そんなときに、さらに追い討ちをかけられるのが世の摂理なようで。


ガチャリ。


「……!」


 部屋のドアノブに誰かが手をかけた。来た相手が誰であろうと、これではもう引き返せない。


 アイーヌは震え続ける体をどうにか起き上がらせる。


(もう、どうにでもなれ)


 心の中で、そう吐き捨てながら。




                               つづく

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