第42話 ライリーとエリック②

 口は笑っていても目が笑っていないライリーと、内心震え上がっているエリック。


 対照的なその二人の姿は、他に誰も訪れない屋上にあった。


「どうしてエリックがここにいるんだ?」

「……だって」

「だって?」

「だって、兄さんだけこの国に来るのがうらやましかったんだもん」


 先程までの震え上がりから一転した態度をとるエリック。


 ライリーのことを「兄さん」と呼んだ彼は、クララがいたときは見せていなかった親しい雰囲気を醸し出していた。


「それでも、一つの国の王子が他国に名を隠して入り込んでいる状態、しかも二人とも入り込んでいるなんて良くないだろう!」


 普段のライリーの姿からは想像できないほどの怒りをぶちまけている。


 この2人が話している通り、この2人は兄弟である。ライリーがクライド王国の第二王子で、エリックが第三王子。


 現在、第一王子は立太子が済んで王太子となっているため、自由に動ける王子はこの2人だけ。


 自由に動ける王子、というのもクライド王国では重宝されるというのに、この兄弟は2人して隣国にやってきている。


 しかも、エリックに至っては年齢も偽っているのだ。ライリーが怒るのも無理はない。


「それでも、兄さんだけクララ様に会えるなんてずるいだろう!? だから、母さんにお願いしてこっそりここにきたんだ」

「エリック……お前ってやつは」


 頭を抱えるライリー。自分の弟はこんなやつだったと自分の過去の行動を反省しつつ、エリックの目をまっすぐに見る。


「わかった。そこまで言うんならここにいてもいい。第一、クララ様と一緒にいるためにC組にいるんだろう?」

「あ、わかっちゃった?」

「当たり前だ。正当に入っていればお前もクララ様もA組に配属されるはずなんだから」


 自分よりも多くの魔力に恵まれた弟の自由さにため息をつくライリー。


(全く、エリックもクララ様も自分の魔力の価値をわかっていない。クララ様はしょうがない気がするが、エリックはわかっていてもいいものを)


 自分と同じで自国での魔術の授業を受けていたのに自分の魔力がどれだけ重要か理解しておらず、ぞんざいに扱うエリックにライリーは頭を抱える。


 目立ちにくいからという理由でC組にいるのなら理解できるが、ある特定の人物と同じクラスが良いからというのはいささか納得し難いようだ。


「まぁ、僕が近くにいた方が兄さんも安心でしょ。何かあったらクララ様のことを守れるし、兄さんに報告することだってできる」

「別に報告してくれなくていいんだけど。

それに、クララ様は今のエリックよりもはるかに強い。もちろん、俺よりも。だから、逆に守られる方になると思うよ」

「そ、そうなの?」


 にわかには信じ難いと言いたげな表情のエリック。ライリーの言葉に疑問を抱いているということが口から漏れ出ている。


 一方のライリーは、忠告してもなお理解しようとしない弟に哀れみの目を向けつつ、屋上のドアへと向かって歩き出す。


「あ、そうだ。俺たちが兄弟だってこと、クララ様にも秘密だから」


 振り向きざまの満面の笑みもつけてこの言葉を吐き捨てると、唖然とする弟を置いて帰路につくライリーであった。


                                つづく

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