第6話 ラストラの絶望



 月明かりの下、一匹のドラゴンが身を丸めている。

 その横たわる頭の前に、女が身を丸めている。 ラストラは静かにシャルを眺めている。


 コイツ、もう眠ったのか……。


 ――――


「死ぬのも、腹の子と生きるのも……、お前が決めろ」


  シャルはラストラのを聞いた後、突っ伏して泣き続けた。ラストラが不思議に感じるほど泣き続けた。

 しかし、いきなり泣き止んだ。 代わりに腹の虫が鳴いた。 

 シャルは突っ伏したまま、動かない。羞恥によって動けないらしい。


  全く……。面倒なものだ。


  ラストラは再び溜め息を吐いた。

「シャルよ……」

 人間が食べられる果実が成っている木の場所を教えると、シャルは無言で鼻をグズグズさせながら森へ向かった。

 しばらくすると三つの果実を手に、シャルは戻ってきた。もう完全に泣き止んでいた。

「……頂きます」

「別にオレに断りを入れなくてもよい」

 その言葉を聞いたシャルは、一気に果実を食べてしまった。余程空腹だったのだろう。


 ――――


 今、ラストラの眼の前でシャルは眠っている。柔らかい草の上で身を丸めて。

 ラストラはこのを眺めている。

 ラストラは、今の自分に嫌気が差していた。「飽きていた」とも言える。

 望んでなどいなかったのに、先代――父親からを与えられ、やはり望んでなどいなかった「腐食の王」などという称号を引き継いでしまった。

 もう、何百年前か、何千年前かさえ分からない。

  誰かにこの能力を渡さないと、死ぬことさえ許されないらしい。事実、先代はラストラに引き継ぐと緩やかに老衰し、嬉しそうに死んだ。


 ラストラは、この世界の何処かにいる同族を探す気にもならない。


 こんな称号、誰も喜ぶものか。 これは呪いだ。有り難みなど全くない。



 シャルの身体がビクリと震えた。

 うなされている。



 ……恐ろしい夢でもみているのか。

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