第5話 シャルの告白



 シャルの胎内には生命いのちが宿っている。


  父親は森で出会った男。

  名も知らぬ男。

  蛇の様な眼をした男。

  肩に蠍の刺青いれずみがある男。

 

 シャルを辱めた男。



 シャルは、あの日の詳細を思い出せない。本能が拒絶している。


 ――山菜なんか採りに行かなければ。私は。


  でシャルの回顧は止まってしまう。終わってしまう。

 シャルの望みはただ一つ、「穢れた我が身と穢れた我が子の消滅」。


 そんなシャルにとって「生贄」は渡りに舟だった。


  ――――


 「では……シャルよ。それはの望みなのか?」

 ラストラはシャルが身籠っている事を見抜いた。


  ……この女からは、の血の匂いがする。


  その問いにシャルは青ざめ、草原の上に座り込んだ。何かが壊れてしまったかのように泣き出した。

「……申し訳ありません。私は穢れた身です。そもそも生贄になる事さえ許されない身です」

  ラストラは無言でそんなシャルを眺めている。人間の哀れさに呆れている。


 コイツらは何なんだろうか。オレにとっては、欠伸あくびしている程度の短い一生で奪い合い、殺し合い、憎み合い……。誇りだ、尊厳だと泣き叫ぶ。


だけが望み、が望まないならオレは喰わぬ。そして、そいつの意思をお前には知るすべが無いな?」

「……では、私は自害するしかないのですか?」

 ラストラはシャルを再び睨む。

「知らぬ。勝手にするがいい。死ぬのも、腹の子と生きるのも……、お前が決めろ」

「そっ……、それはどういう……」

  ラストラは面倒臭そうに溜め息をいた。乾き始めたシャルの髪と白いローブが舞い上がる。


「お前の子も望んだら、二人まとめて喰ってやるわ」


――――


 思いもかけないラストラの提案に、シャルの心が軋む。 シャルは頬の涙を拭った。

  しかし、すぐに新たな涙が伝った。

 シャルには、己の涙の理由が分からなかった。


 苦しみから解放される道を閉ざされた絶望か。

  捨て切れぬ生存本能からの安堵か。


 


 ――――否が応でも日々高まってしまう子供への愛か。

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