第44話

自分の思う通りには動けない。

そうなると運を天に任せて、ひたすら集団と一緒に動くしかない。

「うわーーっ」

また断末魔が聞こえたようだ。

はっきりとは聞き取れなかったが、どうやらとうやがいる位置からは少し離れているようだ。

集団は檻に沿ってぐるぐる回っているようだ。

さっきとうやは血まみれで倒れている人の身体を踏んだ。

もちろんそんなことで止まらないし、止まれない。

――くそっ、いつまで続くんだ。

これまでの傾向からして、全員が死ぬまで殺戮が続くとは思えない。

だったらいつかは止むはずだ。

それがいつなのかはわからないが。

「ぐわっ」

また断末魔が聞こえたような気がした。

ぐるぐる回っているうちに、倒れた人を見かける数も少し増えた。

「ぎゃわっ」

また聞こえたが、断末魔なのかどうかもよくわからない。

その声はとうまからはまだ離れてはいたが、どこまで安心できるものなのか。

とにかく今は、集団と一緒に走り続けるしかないのだ。

「きゃっ」

前方から聞こえた。

すぐに倒れた女性が見えた。

何人もがその女性を踏みつける。

とうやは一応避けることができたが、とうやのすぐ横を走っていた男が、その女につまずいた。

「いたっ」

もう知らない。

かまう余裕はない。

とにかく動き続けるしかないのだ。

殺人鬼だけではなく、とうやは今、集団の狂気の中にいるのだから。

「ぐわっ」

「ぎょえ」

続けて聞こえたが、それが殺人鬼に殺された人の声なのか、それとも転んだ人の声なのかもわからない。

走りながら叫んでいる人もいる。

泣きながら走っている人もいる。

もう滅茶苦茶だ。

完全に息が上がる。

それでも走り続ける。

――限界だ。早く終わってくれ。

「ここにいましたか」

見ればすぐ横を花園が走っていた。

この小さい体で人並をかき分けてとうやの横に来たと言うのか。

そもそもとうやがどこにいるのか、どうしてわかったのだ。

「頑張りましょう。もうすぐ終わりますよ」

どうしてそんなことがわかる。

とうやは聞きたかったが、そんな余裕はなかった。

花園はその小さな身体で走りながら普通にしゃべっているが。

「あと少しですよ」

「ぎゃわっ」

花園がそう言っている間にも、断末魔は聞こえてきた。

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