第43話

空手家が足をおろした。

そして次は。

「ていっ!」

正拳突き。顔面に入った。

しかしやはり殺人鬼は微塵も動かなかった。

空手家が手を引いた。

そして手を痛そうに見た。

おそらく実際に痛かったのだろう。

全力で殴ったものが、全く動かなかったのだから。

「くそっ」

次はとび回し蹴りだ。

殺人鬼の腹に入った。

しかし殺人鬼は微動だにせず、逆に蹴った空手家の方が後方に吹っ飛んだ。

「やはり」

「なにがやはりなんだ」

「相手が人間なら、たとえどんなに強くても空手家の技が少しは通用するでしょう。少なくとも技を受けて、一ミリも動かないなんてことはありません。しかし残念ながら、あいつは人間じゃない」

「人間じゃないなら、あいつは一体なんなんだ」

「造られたものです」

「造られたもの?」

「そう造られたものです。この空間を作ったものと同じ奴が造ったものです」

「人間じゃないのか」

「人間じゃないです。断言しますよ。たとえロケットランチャーを撃ち込まれても、あいつならノーダメージでしょう。身体どころか、かぶっている面も着ている服も同様に無傷で、穴一つ開かないでしょうね」

「……」

そうなると空手家に勝ち目はない。

驚愕している空手家をあざ笑うように、殺人鬼は手にしていたなたをぽとりと落とした。

そして素早く空手家の眼前に移動した。

空手家が反射的に殴ったが、自分の手が痛かっただけのようだ。

殺人鬼が空手家の頭を払った。

まるで飛んできたハエを払うかのような動きで。

それだけで空手家の頭が真横を向いた。

どう見ても首の骨が折れている。

倒れこむ空手家の頭を怪人が両手でつかんだ。

ぶちぃ

嫌な音が響き、見れば空手家の首が胴体から離れていた。

血を流すその首を、殺人鬼が無造作に放り投げた。

なたを拾う。

素手でも軽く人を殺せそうだが、効率を選んだようだ。

そして数百人の集団の方を向いた。

「うわーーっ」

「きゃあああーっ」

「ひやあああ」

再び巻き起こる阿鼻叫喚。

とうやはまたもや数百人の集団に飲まれた。

――くそっ、とにかく転ぶな。

思っているそばから、近くにいた女性が転んだ。

もちろんどうすることもできないし、その女がどうなったかを確認もできない。

「ぎゃっ」

時折聞こえてくる断末魔。

それだけがあの怪人のいる場所がわかる方法だ。

それも騒ぎ泣き逃げまどう数百人の声と音で、はっきりとはわからない。

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