第42話
しかし耐えた。
「ぎゃあああ」
また一人殺された。
――いつまで逃げればいいんだ。
その時、声がした。
「この野郎、いい加減にしやがれ」
とてつもなく大きな声だった。
逃げ惑う人々の足が止まった。
見れば血まみれの男の肩をつかんでいる殺人鬼の前に、これまた二メートル近くはあろうかと言う男が立っていた。
そして筋肉質の男に負けないくらいの分厚い筋肉でその身がおおわれている。
「いきなり現れて人を殺しまくるなんて。おまえ、許さねえ。ぶっ飛ばしてやるぜ」
そうすると、男が構えた。
とうやは特に詳しいわけではないが、その構えはどうやら空手の構えのようだ。
殺人鬼はつかんでいた男を離した。
その男の身体が地に転がる。
ピクリともしなかった。
もう死んでいるのだ。
「ここにいましたか」
見れば花園が横に立っていた。
「あの空手家、どこかで見たことがあるんですが」
「有名な人なのか」
「僕はその方面は詳しくないけど、それでも見たことがありますね」
そうか。ととうやは思った。
それなら空手家があの殺人鬼を倒してくれるかもしれない。
空手に詳しくない花園が見たことがあるほどの空手家ならば。
空手家は構えたが、殺人鬼はつかんでいた男を掘檻投げた後は、動きを見せなかった。
両手をだらりと下げて、突っ立っているだけだ。
「おい、どうした。かかってこないのか。びびっているのか」
空手家が言ったが、それでも動かない。
「さっさと攻撃すればいいのに」
とうやのつぶやきに、花園が答えた。
「おそらく相手が構えをとらないんで、攻撃しづらいんでしょう。空手家はほぼアマチュアですから。クリーンな戦い方しかできないんでしょうね」
花園の言う通りかもしれない。
空手家は構えたまま動かないし、殺人鬼に至っては両手を下げたままだ。
にらみ合いが続く。
しびれを切らした空手家が、ようやく動いた。
「こないんなら、こっちからいくぞ」
回し蹴り。
素人のとうやから見ても、スピードも体重も乗った、申し分のない蹴りだ。
その蹴りは殺人鬼の左側頭部に当たった。
――えっ?
とうやは思った。
なにかおかしい。
花園が言う。
「見事な蹴りです。しかしあの化け物、頭が一ミリも動いていないですね」
「なんだって」
「あれほどの重く速い蹴りが頭に当たったのに、その頭が全く動いていないんですよ。ノックアウトできないとしても、ゆれたり蹴りに押されたりするはずなんですが、まるで大岩を蹴ったみたいですね」
空手家を見ると、その顔に驚愕の色を浮かべていた。
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