第41話

「あんたたちが静かになるまで、ちょっと寝ちゃったじゃないの。どうせ逃げられないんだから、おとなしく覚悟を決めてよね。それじゃあ、よくわかってないと思うから説明するね。これからホラーゲームはじまるよ。どんなゲームかと言うと、死なないように頑張るゲームよ。頑張らないと死んじゃうからね。そんで、今回のゲームは簡単。逃げることよ。一生懸命逃げてね。じゃあ、楽しいゲームの始まり始まり」

声が止んだ。

数百人がかたずをのむ。

すると音がした。

ガガガガ。

見れば檻の一部が開き、そこから男が入ってきた。

その身長は軽く二メートルを超えていそうだ。

顔には能楽で見るような狐の面。

筋肉質な体を全身黒の服で固め、そして手には大きななたのようなものを持っている。

入って入り口のところに立っていたが、突然走り出した。

――速い!

巨体に似合わないそのスピード。

一番近くにいた男に駆け寄り、なたを振り下ろした。

男が血を噴き上げながら倒れた。

「うわっ」

「きゃーっ」

「殺される」

阿鼻叫喚。

数百人が一斉に動いた。

とうやも逃げる。

しかし数百人が左右に分かれたとはいえ、片側だけでも軽く百人以上が同時に走っているのだ。

混雑なんてものではない。

――転んだらアウトだ。

転べば、いったい何人の人間に踏みつかれることか。

それにあの男にも追いつかれるだろう。

とにかく逃げる。

しかし広いとはいえここは円形の檻で囲まれている。

遠くに逃げることはできない。

――あいつはどこだ?

逃げながらでも、あの巨漢のいる位置は知りたい。

あいつから逃げているのだから。

しかし人が多すぎてわからない。

おまけに振り返る余裕もない。

足を止めることもできない。

なんなら自らあの殺人鬼に近づいている可能性だってあるのだ。

「ぎゃわ」

悲鳴がした。

逃げ回る人間の悲鳴ではない。

誰かやられたのだ。

「うわーーっ」

また一人やられたようだ。

その悲鳴は少し離れてはいた。

人の流れが少し遅くなった。

疲れてきたのだ。

ただでさえ闇雲に逃げ回っているのに。

とうやは思い切って一瞬振り返った。

少し離れた場所に、巨漢の頭が見えた。

身長が高すぎて、どれだけ人がいてもその存在が確認できる。

しかし一瞬振り返ったため、とうやは人に押されて転びそうになった。

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