第35話

パパと仲がいいときは怒らずに、パパと仲が悪くなったら怒る。

勝手すぎない。

私が悪いことをしたら怒るんじゃなくて、パパとケンカしたら怒るんだ。

たまったもんじゃないわ。

でも、怒られないって、いいことだわ。

このまま続けばいいけど。

それはどうだかね。


次の日も、川部はとうやのクラスの前の廊下に来た。

そして教室の中を、とうやを見る。

とうやは無視した。

――なにか言いたいことでもあるんだろうか。

そう思ったが、とうやは川部とは話したくなかった。


また次の日、川部はやって来た。

クラス委員が「なにしてる?」と話しかけたが、「別に」と答えたようだ。

何か悪さをするわけでもないので、そのままになった。


その次の日、また川部はやって来た。

ただ廊下に立ち、ただとうやを見ている。

それだけだ。

「あいつ、東雲を見てるんじゃないのか」

クラスの誰かがそう言った。

しかしとうやにそれを聞く者はなく、そのまま話は流れた。


また川部が来る。

しかし川部に話しかけるものはない。

変わり者、係ってはいけない者と評判の川部だ。

それを自ら頭を突っ込む者はいない。

クラス委員が一度聞いていたし。

「やっぱり東雲を見ているぞ」

同じ声が上がる。

まあその通りなのだが。


川部が来る。

毎日一度欠かさずだ。

川部に聞く者はいなかったが、とうやに聞いてくるものが現れた。

「なあ、あいつ東雲のことを見ているけど、どうしてかわかるか。知り合いなのか」

とうやは答えた。

「いや。知り合いじゃない。話したこともない。見ているんだとしたら、なぜ見ているのかもわからない」

「じゃあ聞いてみたら。なんで見てるのかって」

「嫌だよ。変わり者みたいだし。聞きたいならお前が聞けば」

「俺も嫌だよ。見るからに変人だしな。なに考えているかわからんし」

「なら、ほっとけば」

「そうだな。それがいいかもな」

とうやは久しぶりにクラスメイトと話をした。

盛り上がる話ではなかったが。


川部は毎日現れたが、一か月を過ぎた頃から来なくなった。

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