第27話

首が上がり、またふってくる。

どどん。

首が落ちた場所には誰もいなかった。

また舞い上がり、また落ちてくる。

そこにまた人がいた。

完全に体を上からつぶされた。

首が上がると、そこには薄くなった血まみれの肉があるばかり。

再び悲鳴、そして怒号。

恐怖から来る怒りに任せて、罵詈雑言を並べている人がいた。

それも一人ではない。

騒がしい中、首が再び落ちてくる。

頭を下にして。

そこには誰いない。

床板が大きくへこんだだけだ。

手を握られた。

工藤だ。

工藤がとうやの手を握ってきたのだ。

「ここにいていい」

「ああ」

女子高生に手を握られる。

本来ならドキドキする状況だが、今のとうやはそうではなかった。

当然ながら意識のほとんどが落ちてくる首に奪われていた。

それに工藤は可愛い容姿だが、どこか得体が知れない。

いきなりとうやに守ってくれと頼んできたり、手を握ってきたり。

助かりたいのはわかるが、それ以外がなにもつかめない。

なぜとうやを頼ってきたのかも。

首が舞い上がり、また落ちてくる。

これまでに七回落ちてきて、そのうち二回、下に人がいた。

気づけばとうやと工藤、そして川部以外の人たちは、全て高い塀にへばりついていた。

そこが安全だと、皆が思ったのだ。

しかし次に落ちてきた首は、頭から塀に激突した。

塀が頭の形にへこむ。

――あいつ見えているのか?

とうやはそう思った。

しかし首が突っ込んだ塀には、誰もいなかった。

見えているのなら、人がいるところに突っ込むはずだ。

おそらく、そろそろ塀にへばりつく人がいると考えたのだろう。

考えたのは巨大な女の首か、それともあの幼女か。

それはわからないが、今でも闇雲に落ちていることには変わらない。

首が宙を舞い、そして落ちてくる。

再び塀に突っ込むが、そこにも誰もいなかった。

一人二人と塀から離れたが、残りの多くはまだ塀にへばりついていた。

――九回落ちてきて、二人死んだ。

とうやは数えていた。

他にすることがない。

首がまた壁に突っ込む。

そこには人がいた。

首が離れた時、そこには薄くつぶされた人が、塀にへばりついていた。

放射線状に血をまき散らしながら。

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