第26話

――上?

とうやは上を見たが、なにも見えなかった。

空が広がっているだけだ。

しかし次の瞬間。

ドドン。

大きな音がした。

見ればそこにいた。

若い女の首。

その両目は縦に太い糸で縫われて閉じている。

そしてその首の大きさは、明らかに成人男性の背丈よりもずっと大きかった。

そんな巨大な女の首が、頭を下にして床に突き刺さっているのだ。

女の頭があるところの床は、その形に合わせて陥没していた。

上からこの巨大な頭が落ちてきたと思われるが、もしこの下に人がいたとしたら。

そう思い考えていると、巨大な女の首が一瞬で高く舞い上がった。

そして宙に止まる。

とうやはそのまま見ていた。すると次の瞬間には大きな音がして女の頭がまた床に突き刺さっていた。

一瞬だけその動きが見えたが、落ちてくるスピードは、とてつもなく速かった。

しかしその下には誰もいなかった。

そしてまた、あっという間に高く舞い上がった。

「うわっ」

「きゃっ」

数名の悲鳴が聞こえた。

何人かが上を見ながら、右へ左へと逃げまどっている。

残りの面々はその場に立ち止まって、上を見あげていた。

とうやは気づいた。

あの巨大な女の首。

両目のまぶたを糸で縫い付けられていた。

つまり目が見えないのだ。

そして今まで二回落ちてきたが、いずれも人のいない場所だった。

つまり特定の誰かを狙って落ちてくるのではあく、闇雲に落ちてきているのだ。

そして問題なのはそのスピードだ。

あの高さから床に落ちるまで、コンマ何秒しかかかっていない。

落ちてくるのを見て避けるのは、人間では不可能だ。

速すぎる。

そうなると。

――安全な場所も、危険な場所も、どこなのかはわからない。あとは運に負かせるしかないだろう。

とうやは今立っている場所にとどまることに決めた。

そこから動かない。

工藤もそのまま動かなかった。

見れば川部も少し離れたところで立っていた。

川部は上を見ることすらしていない。

そして頭が落ちてくる。

その場所には男が立っていたが、再び首が舞い上がると、そこにはせんべいのような形状の血まみれの肉片があるばかりとなっていた。

「うわっ」

「くそっ」

「いやあああっ」

それを見て、何人かが逃げまどう。

円形の塀の中を、走り回っていた。

もちろん走り回ったからと言って、助かるわけではない。

川部なんかはその様子を薄笑いを浮かべながら見ているのだから。

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