第25話
とうやを見て、相変わらずのにやけ顔だ。
人の気分を害する顔だ。
みんなが黙ってまわりを確認している間、川部がとうやに歩み寄る。
「やあ、始まったな。ここになにか来るんじゃないかと思うんだが、なにが来るかな」
「そんなの知らないよ」
「つれないなあ。もっと愛想よくしろよ。同じ高校の同じ二年生だろ」
「おまえと仲良くする気はないさ」
川部はそれを聞き、一言「そうかい」と言い、その場を去った。
すると静かになった。
誰もなにも言わないし、周りを見ていた人たちも、今はほとんど動かない。
待っているのだ。
参加することが確実なデスゲームが始まるのを。
極度の緊張状態で。気づけば、とうやの隣に女の子がいた。
高校のセーラー服を着ている。
生き残っている女子は二人で、同い年くらいの女の子は一人しかいないためその存在はもちろん知っていたが、今まで会話を交わしたことはない。
それなのに当たり前のようにとうやのすぐ横に立っているのだ。
――どうしたんだこの子は。なにか用でもあるのか。
とうやが思い見ていると、女の子が口を開いた。
「初めまして。私は工藤まみと言います。あなたは?」
「俺は東雲とうやだが」
「そうですか。で、お願いしたいことがあるんですが」
「お願いしたいこと」
「私を守ってくれますか」
「えっ?」
私を守ってくれ。
今初めて話をしたばかりの女の子に、そんなことを言われるとは思わなかった。
守る義理はないし、それにゲームの内容次第では、守りたくてもどうしようもない場合も十分考えられる。
それにしても話したこともないとうやに、いきなりこんなことを言って来るなんて。
それだけ切羽詰まっていると言う見方もできるが、一言で言えばかなり図々しい。
とうやだってこのデスゲームで生き残るのに必死なのだ。
かといって追い返すのもかわいそうだし、どうしたものかと考えていると、工藤が言った。
「困ってますね。そうでしょうね。話したこともない人から、突然そんなことを言われたら。誰だって困りますよね。それじゃあ、とにかく東雲君のそばにいさせてもらえませんか。それだけでいいですから」
「それだけならいいけど、守ると言う約束はできないよ」
「いいですよ。それだけで。ありがとうございます」
そう言うと工藤は、肩と肩が引っ付きそうになるほど近くに来た。
そのまま立っている。
とうやはまだ彼女をどう扱うか決めかねていたが、とりあえずそのままにすることにした。
さっきからこっちを見ていた川部が、歩み寄ってきた。
「おやおや、いつの間に。東雲君も隅に置けないなあ。こんなところでナンパなんて。それにしてもかわいい子だ。うらやましい、あやかりたい」
それだけ言うと、またむこうへ行ってしまった。
工藤が言った。
「私、あの人嫌い。感じ悪いわ」
「そうだな」
その点についてはとうやの同意見だ。
その時、声がした。
頭の中に例の幼女の声が。
「さあさあ始まるよ。おまたせ。今回は、上に注意してね。そして逃げてね。逃げられればの話だけど。まあせいぜい頑張ってね」
声は消えた。
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