第20話

マスの数は八十一だった。

最後の列には現れないだろうから、それを引いて死神が現れるのは七十二か所。

七十二か所すべてに出てくるとしたら、ここにいる全員が死んでしまう。

しかし幼女はゲームをやっているのだから、そんなことはしないはずだ。

出て来る場所も最初から決めてあると言っていた。

そうなると、死神が現れる回数が少ないほど、生き残る確率が高くなる。

もちろん何回出て来るのかなんてことは、とうやにはわからない。

出現する回数が少ないこと。

そしてなにより、自分の前に現れないことを祈るだけだ。

幼女の言った通り、いまさら頑張りようなどないのだから。

そんなことを考えているうちに死神は二か所に現れたが、そこには誰もいなかった。

七十二分の二十四。

死神が人のいる前に現れる確率だ。

ちょうど三分の一だ。

そして自分の前に現れる確率は、死神が一回だけ出てくるとしたら、七十二分の一。

その回数が増えるほど、確率が高くなる。

また出てきた。

そこにも誰もいなかった。

そして消え、再び現れる。

その前にいた男は、頭を抱えてその場にうずくまった。

しかし死神には関係がなかった。

そのまま今度は鎌を縦に振り下ろした。

男の身体が左右に分かれた。血を流しながら二つの身体が倒れる。

その時、小さな笑い声が聞こえた。

見れば川部が死んだ男を見て小さくだが笑っているのだ。

とうやにしか聞こえないくらいの声で。

百歩譲って、人の死がおもしろいといういかれ野郎だとしよう。

しかし今は、自分も死ぬかもしれないのだ。

そんな状況の中、笑っていられるなんて。

少しおかしい奴、変った奴、変な奴と言うのはそう珍しくもない。

クラスに一人や二人はいるものだ。

しかしこの川部はそんなレベルではない。

完全にいかれているのだ。

とうやは川部に恐怖を感じた。

決して近づいてはいけない男。

それが川部なのだ。

とうやの想いなど関係なく、死神は幼女の要望に応え続ける。

現れる。

前に人はいない。

かまわず消えては現れる。

今度もいない。

しかし誰もいなくても鎌を振り下ろす。

そして消える。

「えっ、えっ、えっ」

聞こえてきた。

鳴き声だ。

声の主は生き残った女性のうちの一人。

とうやとあまり年齢の変わらない女の子だ。

頭を抱えてしゃがみこんで泣いていた。

とうやは感じるものがあったが、川部が今度はその女の子を見て笑い出した。

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