第19話

すそがぼろぼろになった黒く大きな布を羽織ったもの。

手と頭だけが布から出ていた。

その手と頭は、人間の骨だった。

手にはバカでかい鎌を持っている。

死神。

そう、それはどう見ても、テレビや映画で見た死神だった。

中央付近、板垣のすぐそばのマス上に現れたそれは、目の前のマスに向かった鎌を振り下ろした。

が、そこには誰もいなかった。

死神が消えた。

しかししばらくするとまた現れた。

とうやから見て右端前方に近いところに。

そして再び鎌を振り下ろす。

そこにも誰もいなかった。

そして消える。

二度鎌を振り下ろしたが、二度とも誰もいなかった。

しかし誰かがいたら、どうなるんだ。

その答えはすぐに出た。

一番前に現れた死神。

その前には先ほど一番前に行けないと訴えていた男がいた。

その男に向かって死神は鎌を振り下ろした。

男の右肩から左腰に向けて。

血が噴き出したかと思うと、死神が振り下ろした軌道にあった男の身体がきれいに切断された。

斜めに切り離された上半身が地に落ち、下半身もその場に倒れた。

「きゃーーっ」

「うわっ」

「切られた」

「切られたぞ」

複数の声と悲鳴が上がったが、少しだった。

とうやも板垣も川部もなにも言わなかった。

声を出すどころではないのだ。

多くの人がそうだっただろう。

とうやは一番前の列に行けない理由がわかった。

あの死神がマス目にしか出現しないのなら、一番前の列は完全な安全地帯となるからだ。

そして幼女は出てくる場所は最初から決めてあると言った。

つまり立つ場所は自分で決めたものの、このゲームはほぼ運ゲーなのだ。

死神がまた現れる。

左寄り中央付近。その前には誰もいなかった。

無人の空間に鎌を振り下ろうして、死神が消えた。

そしてまた出てきた。その前には男が一人いた。

「おい、やめろ。やめてくれ。お願いだ!」

男が叫んだが、死神の動きに何の影響もない。

そのまま右肩から左腰に向けて鎌を振り下ろす。

血が噴き出し、男の上半身が落ちて、下半身が倒れた。

そして消え、また現れる。

そこには誰もいない。

かまわず鎌をふりおろし、消える。

とうやは考えた。

おそらくこれを繰り返すのだ。

問題は、死神が何回現れるのか。

そして死神は自分の前に現れるのか。

この二つだ。

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