第13話

人よりも速く走って逃げるのならともかく、人を引き倒すなんて。

とうやは川部に追いつき、抜き去るときに川部を睨みつけた。

川部が気付き、とうやに向かって薄ら笑いを浮かべた。

その後川部がどうなったのかは知らない。

「十八人、十九人」

とうやは抜いた数を数えながら走った。

――抜けるだけ抜け。

二十人、二十一人、二十二人。

そのまま走った。

さすがに心臓がバクバクいいはじめ、息も荒くなったが、それはみな同じだ。

人生で命がけで走るなんてことが、普通に生きていてあるだろうか。

それをみな、一人残らず今やっているのだ。

二十三人、二十四人。

そして二十五人、二十六人、二十七人。

――まだ終わらないのか。

後ろがどうなっているのか、ゲームは続いているのか。

なにもわからない。

わからない限りは、止まるわけにもいかない。

止まったら首なしに捕まって死ぬかもしれない。

かといってこのまま走り続けるのは、苦しくてそれこそ今にも死にそうだ。

でももちろん止まらない。

走り続けるしかない。

二十八人、二十九人、三十人。

先頭集団が見えてきた。

板垣の後ろ姿が見える。

数人先を走っていた。

三十一人、残十二人、三十三人、三十四人。

とうやは板垣に追いついた。

板垣も気づく。

しかし会話を交わす余裕はない。

二人並んで走った。

抜けないことはないのだが、板垣のそばの方が安心できるような気がした。

それにしてもいつまで走らなくてはいけないのか。

さすがにばててきた。

最後尾から三十人以上抜いてきたのだから。

その時、前方にいた数人が一斉に止まった。

――えっ?

気づけばとうやも止まっていた。

板垣も。

止まるつもりなどなかったのだが、足が勝手に止まったのだ。

全力で走っていたところを急に止まったので、よけいに心臓の鼓動が激しくなった。

苦しい。

とても苦しい。

しかしそんなことを言っている場合ではない。

後ろはどうなっているのだ。

あの首無しは。

とうやは体をひねって振り返った。

そこにはとうやと同じように止まった人々がいた。

苦しい顔であえぎながら。

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