第12話

十体以上いた。

服は着ているが裸足で、足首から先と手首から先に、赤黒い毛が生えているのが見えた。

そしてなんと言っても、そいつらには首がなかったのだ。

――こっちを見ている。

首も目もないのに、とうやはそれがこっちを見ていることを強く感じていた。

するとそいつらがおもむろに走り出した。

集団に向かって。

「うわっ」

「きゃっ」

「逃げろ」

みんな一斉に走り出した。

とうやも。

足には自信がある。

――なにがなんでも逃げ切ってやる。

ところがとうやはなにかにつまづき、盛大に転んでしまった。

――いてっ

痛がっている暇などない。

痛みを無視してなんとか起き上がり走り出したが、初手で転んだために、とうやは最後尾となってしまった。

懸命に走る。

そのうち、とうや以外の最後尾、中年女性の後ろまで来た。

そのときとうやは道の左側を走っていた。

中年女性は右側だ。

そこにあの首なしが来た。

首無しは道の右側を走っていたため、とうやではなく中年女性に後ろからつかみかかった。

すると、中年女性の首がなくなり、その首が首無しの上へと移動するのが、とうやの右目の端に見えた。

――なんだって!

とうやは理解した。

あの首なしに捕まると首を取られるのだ。

――くそっ!

とにかく全力で走る。

足の速さには自信があった。

一人抜き、二人目も抜いた。

とうやは考えた。

あの首無しは十数体いた。

そうなると二十人近く抜けば、助かるのではないかと。

三人目、四人目、五人目も抜いた。

しかしまだまだだ。六人目七人目も抜いた。

とうやが抜いた人がどうなったかは知らない。

振り返る余裕などない。

八人目九人目十人目を一気に抜いた。

とうやは必死で走りながら、抜いた人数を口に出して数えていた。

十一人、十二人、十三人、十四人。まだ安心はできない。

最初に捕まった中年女性は、とうやよりも少し前を走っていたのに首なしに捕まり首を取られたのだから。

十五人目を抜いたところで、前に川部が走っていることに気がついた。

男子高校生にもかかわらず、集団の後半部にいるなんて。

川部は走るのはあまり早くはないようだ。

すると川部は走りながら横にいた男の襟首をつかみ、後方に引き倒したのだ。

男が倒れ、とうやに当たりそうになった。

とうやはそれをなんとか避けた。

――なんてことをするんだあいつは。

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