「やばい、喜古のことも妹として見てしまっているみたいだ」

「同級生だ」

「関われている異性が同性といるのが気になるんだよなぁ」

　喜古に関しては単純に異性といてほしくないだけのように思うが。

　とにかく、部活のこともあるから影響が出ないように片付けた方がいいと言っておく。

「この歳になって気持ちが悪いところが出てくるとは思わなかったわ」

「自覚できているだけマシだと考えておけばいい」

「ん－……こういうところではてつみたいになりたいぜ」

「俺みたいになったら大好きな部活も楽しくできなくなる」

「いや、実際に見習いたいところも多いからな」

　ならどこかだと聞いてみたらすぐに答えられなさそうな慎だ。

　それこそけいや喜古のいいところの真似をしておけばいい、そうすれば既にあるいいところと合わさってもっと他者に興味を持たれる。

　モテることがいいことなのかどうかは知らないものの、そういうことで困らなくなるわけだから恋に興味がある人間からすれば羨ましいことなのではないだろうか。

「というか、否定してくれないんだな、そうかそうか」

「少なくとも外で会える人間を妹として見たりはしない」

「うっ、言ってくれるじゃないか……」

　けいのことは友達として見ている。

　義理とはいえ妹になったわけだがそこから抜けることはない。

「こうなったら昼休みとか以外は教室で過ごすか、けいちゃんも喜古も教室に入ってくることは滅多にないからな」

「残念、全く気にならないんですよ、慎が避けようとしても無駄～」

　距離を置こうとしているということだから喜古的には止めようとするに決まっている。

「俺は喜古達のために動こうとしているんだぞ？」

「別に妹として見られても損は、あ」

「ん？」

「やっぱり損だ、だってそれは恋愛対象として見られないってことだもん」

　少しだけ微妙そうな顔で喜古がそう言った。

　さて、これを聞いて慎がどう動くのか。

　濁して逃げてもこちらになにかが起きるというわけではないものの、その場合は他のところでやってほしいところだ。

「妹じゃないから問題ないだろ」

「じゃあ私を恋愛対象として見られるの？」

「普通に見られるだろ、ただ、喜古が俺のことを気に入ってくれているかどうかは別だからな」

　俺の友達が積極的すぎて付いていけない。

　わがままだな、いざ実際にこうなったらこうなったでこんな風に考えるなんて。

　ただ、これで喜古のあの顔を見なくて済むということを考えれば楽でいい。

　けいは残念だが、誰か一人しか選ばれないことだから仕方がないと片付けた。

　一目惚れとかでもない限り、どうしたって過ごした時間の長さの違いが大きく出るのだ。

「あ、てつさんだ」

「慎や喜古なら教室にいる」

「ありがたいけど二人と過ごすために来たわけじゃないんだよ」

　なら他に年上で友達的存在でもできたのかと考えていると「目の前の人に会いに来たんだよ」と答えを教えてくれた。

「俺でよければいつでも相手をさせてもらう」

「それなら付いてきて、ちょっと慣れないから空き教室がいいな」

「わかった」

　っと、このタイミングで雨が降り始めていることに気づいた。

　窓の向こうにばかり意識を向けている俺としては悔しい結果だ、その程度かと呆れてしまう。

「ささ、ここに座って？」

「ああ」

「じゃあ私は隣の席に失礼します、と」

　静かな場所だ、もし一人でここにいたら寝てしまうレベルで静かだ。

　けいが喜古と似ているようで似ていないというのも影響している。

「友達といなくていいのか」

「その子、同じクラスに彼氏がいるからそっちにばっかり行っちゃうんだよ。好きな子が近くにいたらなにもおかしな話ではないんだけど、ちょっと寂しくて出てきたんだ」

「別にそこで決めるわけじゃないが、友達になる前はわからなかったのか」

　そっちにばかり行くということなら友達になろうとしている段階でわかりそうなものだ。

「それがわからなかったんだよ。単に見ていなかっただけなのか、それともあの子の隠す能力が高いのか、どっちにしてもちょっと悔しい結果だよ」

「はは」

「え」

「悪い、直前に似たようなことを考えたからつい笑ってしまった」

　最初から無理をしているようにしか見えなかったから年相応なところが見られて安心した。

　これからもどんどんと出していけばいい、少なくとも慎や喜古ならそんなことで引っかかったりはしない。

　俺もと加えたいところだが……けいが本当のところを出していくということは少し意地が悪いところも出していくということだから怖くて無理だった。

「笑った顔が可愛かった、もう一回見せて？」

「それは無理だ――なんだ？」

　そんなに近づいたってなにかが出るわけでもない、が、母に同じようにした場合には効果がある気がした。

　何故なら既にやたらと気に入っているからだ。

　あれを見たときに思ったのはそりゃ不愛想の息子よりも明るい娘かというそれ、諦めてもらうしかないが途中からであってもけいの存在のおかげでなんとかなりそうなのはよかった。

「こちょこちょこちょ」

「くすぐりは効かない」

「悔しい」

　悔しいと言われても困るが。

　ただの十分休みだからすぐに解散になって教室に戻った。

　流石にもうやっていなくてほっとした自分もいた。

「あんなことを言っておきながらあれだけどやっぱり慎のことが好きなんだよね」

「いいことだ」

　今日のそれで一方通行で終わることはないとわかったことで俺としてもよかった。

　いままで支えてきてくれた存在に大切な存在ができるなら関係なくても嬉しいものだ。

「でも、余計なお世話もしたくなるんだよ、岩二君も誰か探してみようよ」

「関われている異性は喜古だけだ」

「ん－慎がいなかったら岩二君でも全く問題はなかったけどね」

「冗談はやめてほしい、そういうのは仲がいい存在とだけやるべきだ」

　こういう経験だけはあって嫌な気持ちになってばかりだからやめてほしい。

「えーなんかそれだと嫌みたいで悲しー」

「嫌とかじゃなくて――」

「こんにちは」

「おお、待っていたよけいちゃん！」

　またけいに助けられてしまった。

　救いなのは今日はこれ以上、迷惑をかけることはないということだ。

　学校から離れられるというのもいい、家に着いたら雨とか気にせずに歩こう。

「けいちゃんも気になるよね？」

「少し聞こえていましたが、本人にその気がなければなにも始まりませんよ」

　そうだ、それにそういう話がしたいならまずはけいとすればいい。

　けいにだって特別とまではいかなくても大事な存在がいたのだから盛り上がれる、なんなら母を誘ってもいいぐらいだった。

　既婚者ということで色々なことを教えてくれることだろう、中には活かせることなんかもあるだろうから無駄な時間には絶対にならない。

「そうだけどさーちょっとお世話になったから協力したいって思うじゃん」

「それなら木村先輩との関係が変わってもてつさんといてあげてください」

「え、そりゃいるよ。あ、絶対にないけど、慎に禁止されたら言うことを聞いちゃうけどねー」

　幼馴染がいるときは一緒にいたときにちくりと言葉で刺してきたことがあった、だから特別な存在ができたときにそのようなことを言ってくる可能性はゼロではない。

「んーやっぱり今日は慎の部活が終わるのを待つよ」

「わかりました、気を付けてください」

「そっちもねー」

　それこそ愛か、正直、雨なのによくやるというのが感想だ。

「あのタイミングで行けてよかったよ、そうじゃなかったらてつさんは困りつつも終わらせられなさそうだもん」

「喜古が悪いわけじゃないが助かった、ありがとう」

「うん」

「なにかさせてほしい、けいには助けられてばかりだ」

　一番確実なのは〇円以内の物を買うというそれだ。

　余裕はあるが額が大きすぎても引かれそうだから二千円か三千円以内の物を、というところだ。

「それならゆっくりお喋りがしたいな、場所はどこでもいいからさ」

「なら歩きながら話せばいい、家に着いたら出るつもりだ」

「え、雨なのに？」

「雨だからこそだ、どこか濡れない場所で話せばいい」

「お、確かになんかいいかも。よし、じゃあ歩きます」

　別に歩きながらでもいい、受け入れたからにはちゃんと付き合う。

　また、外にいられれば話すことばかりになっても全く構わなかった。

「待った、歩くのは歩くがどこかけいが行きたい店に行こう」

「行きたいお店と言われてもわからないし……お金もないからね」

　彼女は「えっとね」と吐いてから少し黙ったが「引っ越す際に結構わがままを言っちゃったんだよね」と全部答えてくれた。

「なにか買わせてほしい」

「え、なんでそうなるの？」

「助かったからだ、それがわかりやすく返せる手段だ」

「いやいやいや、話し相手になってくれればそれで十分だよ」

　言うと思ったから驚きはしないが、そこで止められてしまうとできることが一気になくなってしまうのだ。

　ここは母を連れて行くことで――という考えが出てきて捨てる、それだと利用することになるから駄目だ。

「頼む」

「あ、頭を上げて」

「これからも増えていくだろうから無理になる前に返していきたいんだ」

「と、とりあえず帰って歩きにいこうよ、一応……考えておくから」

「ありがとう」

　と、やってからやってしまったと後悔をした。

　ただ、もうそのことは消えないから頑張って切り替えて家まで歩き、着いたら必要な物だけ持って家をあとにした。

　傘をさすことになっても鞄なんかを持たなくていいことが楽でいい。

「うーん」

「どうした」

「理想とは違うんだよね、こう……もっとぐいぐいきてほしい。遠慮がちになにかを頼んだりするのは違うんだよ」

「出会ったばかりだからじゃないか」

　慎が言っていた男子か、慎か、喜古か、この場合なら慎だろうか。

　だが、あの二人はもう一歩進んだところにいると言ってもいい状態で、いまから頑張ったところでイメージが悪くなるだけでしかない気がする。

「なら時間が経ったらてつさんはぐいぐいきてくれるようになるの？」

　けいは最初に敢えて俺のことを出すことが多いから違和感というのはなかった。

「わかりやすい正解例を見せてくれないか」

「わかった、じゃあちょっと足を止めて？　うん、それでこうして距離を詰めてさ、目を見つめながら『可愛いな』って言うの」

「自分に自信があるのはいいことだ」

「ち、違うよ、私はただ……そういうのがいいなぁって」

　適当ではなくても、いや、適当ではないからこそ可愛いなどと慎に言わせるのは不味い、諦めてもらうしかない。

「悪い、それは頼めそうにない」

「頼めそうにないってどういうこと？　私はてつさんに言っているんだよ？」

「敢えて俺で確認をしているわけじゃないのか、なら俺でよければやらせてもらう」

　役に立ちたいのは本当のことなのだ、そして本人がこれでいいなら悪くないだろう。

　というか、こういうのをちゃんと使っていくしかない、なにを言っているのかと呆れたくなることではあるが結局、踏み込まなければなにも得られない。

　それでも気持ちが悪いことには変わらないから慎には安心してもらいたかった。

　俺に比べたら遥かにマシだ。

「きょ、今日？　い、いまここで？」

「ああ」

「じゃあ近いからこのまま……お願い」

　迷ったら精神がやられてしまうからすぐに言わせてもらった。

　希望通り、ちゃんと目を見て言った結果、俺の方がやられた。

　このときになって初めてあまり意識をして会話をしていなかったということがわかった。

「あ、ありがとう」

「ああ」

　いい点はそういうことがあっても抑えられるようになったことだ。

　だから表面上では多分、一切表情を変えずにいられている。

　これは純粋だった頃に自由にやられたからこそのソレではあるから感謝はしたくないがするしかない。

「あのさ、やっぱり家でお喋りがしたいんだけど……駄目かな？」

「店は――」

「それをしてもらったら私が返せなくなっちゃうよ」

　これだと考えるという件すらなくなりそうだ。

　それよりもだ、なんか露骨に帰りたがっていることが気になり始める。

　俺が考えている以上に気持ちが悪かったということなのだろうか、それでいますぐにでも一人になりたくて俺に言ってきているという風にしか見えない。

　いやまあ、抑え込んで付き合われても困るが、男なのに情けないが、本当に些細なことで傷つきやすいから怖くなってしまった。

「全くそんなことはないが」

「駄目っ」

「珍しく大きな声だ」

「そ、そんなことはどうでもいいのっ、はいっ、家に帰ろうっ」

　背を押す手に力が込められていることからどれだけ帰りたいのかは伝わってくるが……。

　本人が嫌がっているのに続けるのはなにもしないよりも質が悪い、ということで終わらせるしかない。

　しかし、露骨なそれに負けて母が帰ってくるまでは部屋にこもっていた。

　お喋りがしたいという話も最初から帰るために口にしただけで来たりはしなかった……。

「てつ、なんか元気がないね」

「いつも通りだ」

「ずっと見てきたからわかるよ、抑え込もうとしているだけだってね」

「なら言うが、ちょっとけいと――」

「けいちゃんと喧嘩でもしたの？　それなら早く謝って仲直りをしないとね」

　誤解をしてほしくなかったから本人がいないのをいいことに全て吐くと「ははは、けいちゃんもてつも面白いね」と笑ってくれた。

　正直、逃げられるよりはよっぽどよかった。

「だけどそっか、なら喧嘩じゃないね。んー恥ずかしくなっちゃったんじゃない？」

「いや、俺は気持ちが悪すぎて一緒にいたくなくなった――」

「だから必要以上に悪く考えない、そもそもけいちゃんが求めてきたんだよ？」

「理想とは違ったということだ」

　これで一緒に登校することも、一緒に弁当を食べることも、一緒に帰ることもなくなるかもしれない。

　わかりやすく嫌なことだった、あと、もう既にけいといられる時間を好きになっていることに気が付いて呆れた。

「けいちゃんの求める理想通りになったんだから絶対にそうだよ」

「お、お母さんそれ以上はやめて……」

「あれ、はは、戻ってきたんだね」

「う、うん、ちょっと落ち着いたのと、一人で部屋にいるのも寂しかったから」

　今日中にまた顔を見られるとは思っていなかった――って、一緒にご飯を食べたがもう無理だと思っていたから驚いた、が、それと同時に空気を読んで離れた方がいいのかどうかで悩むことになる。

「風呂に入ってくる、父さんも帰ってきたときにすぐ入りたいだろうから」

「「待って」」

「どうした」

　母に協力をされると俺は言うことを聞くしかなくなるから勘弁してほしい。

　

「あ、お母さんが先でいいよ」

「ううん、私はけいちゃんのために止めようとしただけだから大丈夫だよ、洗い物をしてくるね」

「いつもありがとう」

「そういうところはわかりやすいてつのいいところだね」

　けいの希望で部屋に移動することになった、なんでだ……。

　別にリビングでも無理ということはないだろう、そもそも俺が原因でこうなっているのによく二人きりになんてなろうとするなけいは。

「さっきはごめん」

「謝らなくていい」

「それでね？　一人でいるときに考えていたんだけど、頼めないって木村先輩に頼めないということだよね？」

「ああ、慎に興味を持っているみたいだったからい言わせてもらったんだ」

　自分でそこにたどり着くということはやはりそれなりに気持ちがあるということなのだ。

　だが、残念ながら協力してやることはできない、喜古と同じような顔になるところを見たくないからだ。

「興味……？　いやいや、流石に喜古先輩のことが好きなのに興味なんか持てないよ。あ、友達としてはいてほしいけど……って、これだとちょっと偉そうか」

「なんだ、俺の勘違いだったのか」

　俺のためではないが本当にありがたい存在だな。

　だからやはりなにかを買うとか付き合うとかでなんとかしなければならない。

　家族だからなどは関係ない、人として当然のことをしようとしているだけだ。

　慎にそうしているところを見てもらえれば「それなら私にもしてほしいな」とならないだろうか？

「どこをどう見たら、どう聞いたらそうなるんだろう……」

「悲しそうな顔を見たくない、なにもないならそれでいい」

「そうなんだ」

「納得できないといった顔だ」

　こ、怖いが大丈夫か？　話せた結果、悪化するということからは避けたいのだが……。

「うん、最近出会ったばかりだけど最初から勘違いをされていたということだよね？　私、てつさんのところにばかりいっていたんだけどなって」

「事実だ、だが、慎に対して思わせぶりではないがそれらしいことをけいは言っていた」

「いやだからあれは……って、私にも原因があるか、てつさんが悪いわけじゃないね」

　いや、全くそう思ってくれているように見えないぞ。

　たまには手伝うために、つまり逃げるために動くことにした。

　一階に移動する際、後ろから「逃げるんだ」とぶつけられたときは冬でもないのに震えあがった。