第12話 トレーニング

 ダンジョンの1階層、夜中。

 魔物は好戦的になり、何があるかも分からないそんな時間に1人、僕はダンジョンへと潜り込んでいた。


『よし……こんなもんか』


 そうして僕はスキルである"偽装"を解き、『ステータス』と呟いた。


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 名前:さかき れい

 種族:???……スライムLv Max

 ユニークスキル:真実を捉える瞳(EX級)

         魔之体(E級)Lv1/5


 スキル:擬態(E級)Lv5/10

     偽装(E級)Lv6/10

     酸液(E級)Lv1/10 new


 腕力 9

 防御 10

 素早さ 9

 魔力 10

 知能 15

 精神 15

 運 1


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 何匹かのスライムを倒し、遂にレベルがMaxになった。

 腕力、防御、素早さ、魔力は軒並みLvが1上がる毎に+1され、スキルは新しく"酸液"を覚えた。


(トレーニングが始まる前に何とかレベルを上げようと思ったけど、意外と上がるもんだな……さてーー)


 レベルがMaxになった。という事はーー。


【種族スライムのLvがMaxになりました】

【前回の条件達成により、自動的に種族変更を行います】


(種族、変更?)


 思ったと同時、僕の身体がメキメキと音を立て、激痛が走った。まるで身体の構造全てが変わる様な、それほどの痛みだ。


 数十秒間続く痛みが収まった頃、目の前にあるボードに僕は自然と『ステータス』と呟いていた。


【種族"スライム"から種族"ゴブリン"へと種族変更を行いました】

【種族"スライム"はスキル『スライム』として表示されるようになります】


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 名前:さかき れい

 種族:???……ゴブリンLv1/10

 ユニークスキル:真実を捉える瞳(EX級)

         魔之体(E級)Lv1/5


 スキル:棒術(E級)Lv1/10


     スライム(E級)Lv1/5

     ・擬態(E級)Lv5/10

     ・偽装(E級)Lv6/10

     ・酸液(E級)Lv1/10


 腕力 2(+9)

 防御 2(+10)

 素早さ 2(+9)

 魔力 1(+10)

 知能 15(+15)

 精神 15(+15)

 運 1(+1)


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 スライム(E級)Lv1/5……スライムへと種族変更が出来る(但し種族が固定されている場合に変更を行うと、固定されている種族は消滅する)。種族変更を行う事でスキルが使用でき、全てのスキルレベルが Maxになる事で種族・等級が進化する。


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 スキル『スライム』なんて初めて聞いたけど、『進化』出来るのはデカい。ステータスも今までのが引き継がれており、力に溢れている。


 ただ気になるのは『種族が固定されている場合に変更を行うと、固定されている種族は消滅する』という一文。


(今僕がゴブリンのレベルを Maxにせずスライムへと種族変更を行えば、ゴブリンという種族が消滅するという事だろうか?)


 ゴブリン達との戦闘で僕は何らかの条件を満たしたらしいが……消滅、か。


 これは一時的な消滅を示すのか、それとも永久的な消滅を示しているのか……これはなるべく早めに知っておいた方が良いだろう。


 僕はダンジョンの入口へと向かう前に、スキル"スライム"を発動させた。


【種族変更が行われました】

【種族がゴブリンからスライムへと変更します】

【条件を満たす事が出来なかったので、種族ゴブリンは消滅します】


 思った通りか、ゴブリンという種族は無くなってしまった。

 今はスキルである"偽装"のレベルを上げるのが優先。特殊な種族で、ユニークスキルを持っているとバレたら嫌でも注目を浴びるから。


(それに、種族変更の条件。もし、今僕がゴブリンという種族ではなくなったとしたら何になるのか。スキルにある"スライム"になるのか、はたまた違うナニカになるのか……未だに知らない事は多々ある。"ゴブリン"には『棒術』スキルしか無いし、消滅してもそこまで損はないだろう)


 僕は『擬態』をし、今晩から見張りが立っているダンジョンの入口を抜けると孤児院へと戻るのだった。


 空はもう薄く明るくなっていた。


 ◇


「それじゃあ、トレーニングを始めようか」


 斎藤純也の言葉に、2人は大きく頷きを返す。

[ヒールスープ]と[魔キノコソテー]という前では考えられない豪華な昼食を食べ終えた2人はすこぶる体調が良さそうに見える。


 そんな様子を僕は[トレーニングルーム]の外から欠伸を噛み殺しながら眺めていた。


[トレーニングルーム]と称されるそれは、周りダンジョンから採れる[魔鉱石]から作られる。ダンジョンの壁の似た性質を持つ鉱石で、大抵の力では壊す事もジワジワと魔力攻撃を加えて壊す事も出来ない。


(確か微々たるものではあるけど、回復効果もあった筈)


 そこでトレーニングが出来るなら、2人には良い経験になるだろう。


「よし、では最初は準備運動からーー」


 3人は動き始める。

 周りには騎士達も居ないようで、悪い影響を与えられる事は無さそうだ。斎藤純也がマトモであれば、僕はこれから今の時間まで寝る事が出来るし……今日だけは様子見しよう。


(斎藤純也は、見るだけでも勉強になると言っていた……だけど僕は回帰する前に[ダンジョン理論]などダンジョン関係の勉強については網羅していた。戦闘時の勉強についても……)


 ただ、足りなかったのが無能者であゆ僕に合う武器、ステータスもスキルもない無能者の戦闘方法……全ての知識を噛み砕き、無能者である自分に合うように練習した。


 それでも、力を埋める事は出来なかった。


(まぁ、今の僕なら溜め込んだ"知識"をモノに出来るステータス、そしてスキルもある。でも、こんな目立つ所でアイツらと一緒に練習は出来ないよな……)


 一緒にトレーニングをするのなら、下手に手を付けられないぐらいに力を付けてからだ。


 僕がボーッと2人のトレーニング風景を見ていると、トレーニングルームに通ずる扉がある方から足音が聞こえて振り返る。


「アレが、純也さんの期待株……」


 そこには興味深そうにトレーニングルームを眺める女性が居た。


 歳は10代後半ぐらい。身長は150センチない程にも関わらず、顔立ちは自信に満ち溢れている。青く大きな瞳、栗色の髪は腰まで伸び、まるで絹の様で見るものを魅了している。


(見た事がある。この人は確か……)


「ん? 君は誰?」

「……人に名前を聞く時は自分から名乗るものじゃないですか?」

「それもそっか……私はマリアント・リリー! 君の名前を聞いても良いかな?」

「……榊 䨩と言います」


 その名前、やっぱり聞いた事がある。

 近い将来、最年少で騎士団長になる……[ジャンヌ・ダルクの再来 マリアント・リリー]その類稀なる容姿に、隊が危機に陥った際の的確な指示からそう言われた人だ。


(確か今は騎士団に入った頃……第16支部に居たのか)


「䨩か〜、よろしく! それで䨩は何で此処に?」

「僕は彼等の友達で、心配なので見に来ました」

「心配かぁ〜……なるほどねぇ。周りにあんな騎士達が居たら……あっ、で、でもッ! ああいう人達だけじゃないんだよ? 騎士団には素晴らしい人達が沢山ーー」

「第16支部には?」

「……あんまり、居ないけど」


 彼女は分かりやすく肩を落としていた。


 表情がコロコロ変わっている……回帰前に聞いた話じゃ、集合で少しでも遅れたら厳しい罰則を行なっていた、規律に厳しい人らしいけどーー。


(印象が全然違うな)


 僕が彼女をジッと観察していると、彼女は急に背筋を伸ばして握り拳を作った。


「で、でも安心して!! いつかは私が騎士団を変えて見せるから!! あんな厳ついばかりで規律も守らない騎士達なんて居なくなって貰うんだから!!」

「見た所、まだその最低な騎士達の下っ端みたいだけど?」

「あうぅぅ……」


 彼女は恥ずかしそうに、手元に持っている缶ビールが入ったビニール袋を背に隠した。


「そ、それよりも君は一緒にトレーニングしなくて良いの?」

「僕はまだ『覚醒』してないんで」

「え? 『覚醒』してないの? 本当に?」

「昨日やった[測定装置]で[1]が出て……」

「え〜? そんな感じはしないけどなぁ? 強そうな気がするんだけど……」


 そう言われドキッとすると同時に、僕はある事を思い出し、僕はバレない様に『真実を捉える瞳』を発動させた。


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 名前:マリアント・リリー

 種族:ハイヒューマン

 ユニークスキル:直感(E級)Lv4/10


 スキル:剣術(E級)Lv2/10

     指揮(E級)Lv1/10

     身体強化(E級)Lv1/10


 腕力 10

 防御 10

 素早さ 8

 魔力 8

 知能 10

 精神 5

 運 10


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 直感(E級)……あらゆる物事に於いて直感が働く。


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 詳細は簡潔だが、万能で使えるユニークスキル。普段でも、戦闘時でも使えそうなスキル。


(これがあれば嘘なども把握出来るだろうな。このユニークスキルの前だと『偽装』は役に立たない。一応、総合値については嘘は付いてないから良かったものの……これからは誰に対しても早めにステータスボードを見ておこう)


 改めて『真実を捉える瞳』に感謝しながらも、僕は不躾に視線を向けてくる彼女を横目に2人のトレーニングの様子を見ているとーー。


「おいッ!! マリアントッ!! そんな所で何してるッ!! 1分で戻って来いって言ったよなぁッ!!」


 彼女の背後からアルコールの臭いと共に顔を赤らめた男が出て来る。


「あ……ろ、ローグ先輩」

「マリアントよぉ〜? 俺はお前の事を思って仲良くしてやってんのに何でそうなんだ? 俺の言う事を聞いてれば直ぐにでも下っ端から抜け出せるってのに……」

「は、ハハハッ、す、すみません……」


 男の手が彼女の腰に回され、それを彼女は見るからに嫌がっている。だけど、先輩だから言えない。もし此処で反発したら下っ端の自分はーー。

 そんな彼女の様子を見て、ふと思う。


(ーー凛も似た様な気持ちだったのか?)


 凛は僕の事情を知っていた。

 だけど、凛は知らないフリをして僕と笑顔で接していた。僕を思って、嘘を付いていた。


(そう……僕に、何も力が無かったから。そうせざるを得なかったんだ)


 弱者は淘汰される、何も出来ずに。


「胸糞悪い……」

「あ"? 何だそのガキは?」

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