第9話 僕とやろうよ

 扉を開けた瞬間、大歓声が心臓を揺らした。


 ライブハウスもびっくりの大音量。歓声、声援、怒声。多くの人たちが一同に介し、その戦いを見守っていた。


 訓練場……というより、コロシアムという言葉が似合う場所だった。

 円形のコロシアム。取り囲むように観客席が並ぶ。


 観客は皆、興奮していた。コロシアムの戦い以外は目に入らないといった様子の……狂っているほどの熱気だった。


 これほどの熱気が、あり得るのだろうか? いくらグレイブさんの人気が高いからといって……


「あんまり大声じゃ言えないが……」兵士がレイたちにだけ聞こえるように、「賭けの対象になってんだよ。だから、ここまで熱気がある」

「賭け……ですか」

「ああ。誰が勝つのかを賭けたりしてんだ。結構な額が出回ってるって聞くが……この熱気を見る限り、本当みたいだな」


 要するに、ギャンブル場でもあるわけだ。だからこれほど、異常な熱気に包まれている。


 グレイブ目当ての客なんて、少数なのだろう。一部の純粋な人たちだけなのだろう。


「さて……しかし……」兵士は背伸びをして、「この人だかりじゃあ……あんまり戦いが見えんな……」

「たしかに……」人が多くて、コロシアムまで目線が通らない。「……ふーむ……まぁ、かき分けて先頭まで行こうかな。案内ありがとう」

「おう。城を出るときも、門で手続きしろよ。そうしないと、場内に忍び込んでる扱いになるからな」

「わかった。ありがとう」


 というわけで、案内してくれた兵士と別れる。彼はグレイブの戦いが見たかったのか、名残惜しそうだった。しかし門番という職務があるので、長期間はサボれないのだろう。


「じゃあ……行こうか。とりあえず最前列まで」

「はい」


 手をつないで、2人は人混みをかき分けていく。


 熱気に押されつつ、なんとか前に進む。全員戦いに夢中で、案外あっさりと最前列まで到達できた。


 そして、戦いの場を見下ろす。


「その程度か」コロシアムのど真ん中に立つ銀髪の剣士が、「騎士団の兵士ともあろうものが、その程度の実力では話にならん。出直してこい」


 銀髪の剣士の周りには、多くの兵士が倒れていた。


 実践形式とは言え、あくまでも訓練。


 倒れている兵士たちは、全員が無傷だった。


「すごい……」それを見て、レイが言う。「……手加減も完璧。ちょっとレベルが違う強さみたいだね」


 相手を叩きのめしつつ、ケガもさせない。それは圧倒的な力量差を持ってして、初めて可能な芸当だ。


 あの銀髪剣士、相当できる。少なくともこの場では、ぶっちぎりで最強だろう。


「あれがグレイブさん、ですかね」


 銀髪で長身で、スラッとしたイケメン。少しばかり細身に見えるが、その服の下は筋肉の鎧に覆われているだろう。


 そうして、1人の兵士が銀髪の剣士に向かっていく。

 剣士はあっさりと攻撃をいなし、兵士を組み伏せた。


 そして、大歓声。


「グレイブさーん!」「カッコいい!」「いいぞー! もっとやれ!」


 どうやらあの銀髪騎士が、グレイブという人物らしい。


 この国の騎士団長。国最強と名高い男。


 間違いなくイケメン。少し神経質そうにも見えるが、その鋭い目線に心を撃ち抜かれる人は多いだろう。


 レイの、目的の人物だ。


「他にいないか!」グレイブは兵士をすべてなぎ倒し、「この程度では訓練にならん! まだ私に戦いを挑む戦士はいないのか!」


 そんな勇ましいグレイブを見て、レイが、


「……戦うのが好きみたいだね……運動するのが、好きなのかな」それからレイはひめに向かって、「でもちょっと、退屈そうだ。強すぎるのかな?」


 グレイブは……強者との戦いを欲しているようにみえる。満たされていないようにみえる。


 強すぎるというのも、不自由なんだな。


「じゃあ、行ってくるね。少し1人にしちゃうけど……大丈夫?」

「はい」ひめだって強いので、大丈夫である。「おケガのないように」

「相手が相手だからね。ちょっと厳しいかも」


 それからレイは数度、その場で飛び跳ねた。


「……」コロシアムのグレイブは倒れた兵士たちを見て、「……もう終わりか……次の全席訓練までには、もっと鍛えてくるように。私の渇きを……満たしてくれる人間の登場を、期待している」

「じゃあ僕とやろうよ」


 なんだか知らないけれど、レイの声は異常に通る。

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