最終話
恋敵が呟いた。
俺も、それには同感だ。
恐らく恋敵が言った『魔女』には、非道さが主に含まれているだろう……、比べて俺は、まるで魔法でも使っているのか? という意味で、先輩を『魔女』なんじゃないかと疑った……。
人間をペンギンに変えるなんて、魔女じゃないとできないのではないか。
オカルト研究会というのは、魔法を研究しているのか……?
「魔女、ね……意外と的を射ている推測よねえ……。――それで、どうするの? 魔女である私になにをするのか。見せてもらえるかしら? ……許せない? だったら殴りかかってくればいいんじゃない? その体で――ペンギンの体で、その小さな羽でね」
ぐ、と言葉を詰まらせた恋敵。
彼を横目で見ながら、俺は考える。
許せないことは確かだ。
しかし、ここで鯱先輩を殴っても状況は好転しない。
殴って、なんになる。
それで解決するのか?
するなら、喜んでするが……、解決なんかしない。
自己満足で終わるだけだ。
理々のことが、まずは先決である。
――父親を失った。
船の中にいた仲間も助からないだろう……。
家に帰れば父親以外の家族がいるかもしれない……。
目の前に従姉の鯱先輩がいるわけだしな――。
そう、俺には、理々をどうこうすることはできないのだ。
結果的に助けたけれど。
この子の未来を決める選択権は、ない。
「鯱先輩……理々のこと、任せてもいいですか?」
「それは君の役目でしょう? バツ君――だって助けたのは君だし。君がこの子を一人にした……、なのにここで私に押し付けるの? 逃げるの? そんなことが、君にできるの?」
「……俺にはどうすることもできないから、先輩に頼んでるんですけど……」
「嘘よ、嘘。ごめんね、脅すようなことを言って。そうよね、君じゃあこの子のことを養うことはできないし、親にもなれないものね――。なら、一つ提案があるのだけど。バツ君。オカルト研究会に入ってくれないかしら。そして、私の仲間になってくれない?」
……全てが予想通り。
これは、俺の勘が今だけ鋭いのか。
それとも、鯱先輩の手の平の上で転がされているからなのか……。
とにかく、俺に選択肢はなかった。
――俺が口を開きかけた、その時だった。
恋敵が、前に出る。
「――ふッッざけんなッ!! 誰がおまえのところにいくかよ……ッ、魔女に身を売るくらいなら路頭に迷った方がマシだ!!」
「いや、恋敵……いいんだ、大丈夫だよ」
魔女……否、鯱先輩の表情がどんどんと曇っていっていることに気が付き、恋敵を止める。
これ以上の暴走はまずい……、鯱先輩を怒らせることは避けた方がいい。
今度はなにをされるか分かったものじゃない。
それに、嫌々入るわけではない……
少なくとも興味はあるのだ――――オカルト研究会には。
死ぬわけじゃない。
だから、誘いを受け入れることだって、できる。
「いいでしょう、入ります」
「うふ、それでこそ、バツ君」
鯱先輩が微笑んだ。
……表情だけを見れば大人の女性だ。
まあ、仮に魔女でも、大人の女性なのだから当たり前か。
「それで。あなたはどうするの?」
鯱先輩が恋敵に聞いた。
恋敵は納得のいかない表情で――、いや、無理しなくていいぞ?
そう声をかけようとしたが、しかし一瞬早く恋敵が答えた。
「ああ、おれも入る」
そう言った。
「理々のために、おまえの部下になってやる」
「ふふ、バツ君だけじゃないわね、やっぱり、あなたも面白いわ――ペンギンだから尚更ね」
不気味に笑う鯱先輩……。
彼女は俺と恋敵を海から引き上げて、魔女が乗るボートに乗せた。
子供とペンギン二羽である……
一人乗りだけど、余裕で乗ることができた。
「それじゃあ早く帰りましょうか。色々と厄介なことに巻き込まれないようにしなくちゃね――ねえ、そうでしょう? 犯罪者君?」
と、鯱先輩がからかってくる。
どうやらこのネタは一生使われるらしい……。
彼女の微笑みからそれが分かった。
でも、それでいいのだろう……――それがいいのかもしれない。
そうやって何度も何度も責めるように言われないと忘れてしまいそうだから……
風化はさせない。
俺は、千人近い人間を殺したのだから……。
――だから、絶対に忘れてはならない。
終
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