第20話 最後の参加者



 杏奈たちが戻ってきたのは残り時間が20分を切ったあたりだった。


「嘘……」

 事情を聞いた彩は絶句。めぐみも複雑な心境を隠せなかった。杏奈俺にしがみついてずっと震えていた。

 俺は先に入った二人が……万が一……失敗したときのためにミラーハウスの様子を注意深く観察していた。

 これまでのアトラクションと違い外側から何もわからない。

 これ、本当に二番手に意味があるのか。

 時間だけが刻々と過ぎていく。


 残り時間は10分を切った。

 早ければそろそろクリアしていてもいい時間だ。

 吉田の泣いて嫌がっていた様子を思い出してしまった。

 あんなのを引き連れて入るなんて俺にはできない。

 信二は本当に俺たちを助けようとしてくれたんだろうか……。

 

 そして残り時間は5分を切った。

 俺は大声で信二と吉田を呼んでみるが反応はない。

 中からの声も聞こえない。


 出口と書かれた場所へ移動してみる。

 出口は一つ。ここを二人同時に出てくればいいのか。


 残り4分。

 扉が開く様子はない。


 残り3分。

 俺は扉をたたき、信二を大声で呼ぶ。反応はない。


 残り2分。


 残り1分。

 そして、カウントは1分を切り秒数が無情に減っていく。


 30、20、10。

 早く! お前らのせっかくの挑戦だけど、俺はまだ何もヒントを得られてない! だったらせめてお前らはクリアして出てきてくれ!


 5、4、3、2、1


 0


 カウントダウンが終わり電光掲示板の表示が変わった。




 ミラーハウスを二人で同時にゴールしよう(1)

 制限時間:30分




 制限時間はリセットされ、残り回数が減った。

 コレまでみたいに派手な演出はなかった。

 何も音もなく、ただ時間がリセットされ、信二と吉田が帰ってこなかった。

 ただ、それだけだった。




「中の二人はどうなったのかな」

「わからないけど、たぶん……」

 これまでのミッション失敗はすべて殺されてきた。

 ミラーハウスの中で爆発音やら大きな音は聞こえなかった。

 大方窒息死やらそんなところだろうけど、そんな事を考えても仕方ない。


 もう少しだけ待ってみたけれどやっぱり二人は帰ってこなかった。

 こうなったら諦めるしかないだろう。


「次の挑戦者だけど。俺行くよ。いいか?」

「いいかって、いいに決まってるじゃん……」

 めぐみはまだ混乱中のように見えた。

 だから一応今の状況を説明する。


「いや、これで挑戦は最後だ残り1回だしな。もし俺が失敗すれば、次の挑戦はできない。ゲームオーバーになる。残ったやつがどうなるかは……」

「ああ、そういうことか。じゃあもう誰が行っても同じってことか」

 めぐみはそれっきり黙ってしまった。


「じゃあ、俺と一緒に入ってくれるやつはいるか。これ二人じゃないとだめらしいからさ」

 少し悩んでからめぐみが

「あたし行ってもいいよ。どうせここに残ってたって失敗したら終わりだもんな。それにお前とならなんか行けそうな気もするし」

 嬉しいことを言ってくれる。

 それにめぐみなら頭もいいしある程度信用もできる。俺としては文句はない。


 今回は二回目であるメリットもなく、三回目に逃げるメリットもない。

 だから行きたいやつが行けばいい。

 だったら俺は行きたい。

 どうせなら自分が失敗して死にたい。

 だれかの帰りを待つのはもう嫌だ。


 と、そこへ

「岡本さん、できれば私に行かせてほしい」

 と彩が入ってきた。だが残念だけど今立候補することに価値はない。

 たとえこの後アトラクションが続こうと、この段階での参加にたいした価値はない。

 だってもう残りは四人だ。

 だけど、それももうどうでもいいかもな。

 今更この四人で一番手を決めるためにごちゃごちゃ揉めることもないだろう。


「あたしはどっちでもいいけど、いきたいのか?」めぐみが聞くと彩は

「うん、行きたい。できればこのまま何もしないまま終りを迎えたくない。杏奈さんはどうかな。行きたい?」

「あたしは……無理……」

 杏奈は大げさに首を振り拒絶して俺の後ろへ隠れてしまった。

「じゃあ俺と彩で入る。それでいいか?」

 めぐみが頷いて最後の参加者が決定した。




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